感染症めぐる国際体制の変遷 背景を描き、飽きさせない
評者/帝京大学教授 渡邊啓貴
昨年来、感染症に関する膨大な書籍が刊行されたが、その多くは感染症の猛威について語ったものか、アフターコロナの社会について論じたものだ。地球規模の感染症との国際社会全体の戦いを正面から取り上げた書籍は意外と少ない。
本書は、感染症を国際体制(レジーム)の歴史的変遷との関係から考えようとする問題提起の書である。
コレラ、ペスト、黄熱病、チフス、天然痘といった感染症と人類との戦いは長い。ペストは5000年前の女性の人骨からその痕跡が発見されている。人類が感染症に対して国際的に動き始めるのは、19世紀半ば以降で、それが国際衛生条約として結実したのは1890年代であった。
しかし、この条約には限界があった。署名した各国において批准が行われなければ、法的効果が十分とは言えなかったからである。
第2次世界大戦後にWHO(世界保健機関)が誕生し、国際衛生規則が各国の感染症対策の規範となる。2005年の国際保健規則は「疾病」という新しい概念を導入することで、条約に定められた感染症以外の広い範囲の感染症を対象にできるようなった。
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