いかに仏共産党指導者はナチス協力者となりしか
評者/関西大学客員教授 会田弘継
まさに時代に翻弄された生涯だ。フランスのナチス協力者の領袖(りょうしゅう)と、彼が率いたフランス人民党の消長を描く。20世紀前半に世界が直面した思想上の難局が凝縮されている。学術的な書だが、一級の文学作品のような深い読後感を読者は得るだろう。
労働者の味方となり平和を求めた共産党指導者ジャック・ドリオは、スターリニズムとナチズムという20世紀世界が生み出した2つの狂気に振り回され、ファシスト政党を創設。ついには銃をとってヒトラーの軍隊にまで加わりスターリニズムと戦うが、ナチズムに踊らされた揚げ句、非業の死を遂げる。
若きドリオを迷走に追いやったのは、フランス共産党を意のままに操ろうとするモスクワの策謀だ。ファシズム勢力と戦うには社会党との統一戦線が必須だと訴えるドリオを、国際共産主義運動の方針に逆らったとして除名する。除名と同時にモスクワが発した指令は統一戦線であった。
雄弁でカリスマ性を持つドリオのスターリニズムとの戦いは、この仕打ちに端を発する。共産党と国際共産主義運動に対する「すさまじい憎悪」がドリオの「その後の変化のすべての萌芽」だった。ドリオに限らず、世界中の多くの転向者は、似たような憎悪を持ったのだろう。本書が子細に描くドリオの事例をたどることで、転向を生んだスターリニズムの非道を読者はまざまざと知る。
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