東京大学特別栄誉教授の小柴昌俊氏が11月12日に亡くなった。94歳だった。小柴氏は、超新星爆発で放出されたニュートリノを世界で初めて検出するなど、素粒子物理学で大きな功績を上げ、2002年、ノーベル物理学賞を受賞した。週刊東洋経済では2008年に小柴氏にロングインタビューを行い、『長老の智慧』で5週にわたって連載。その5回を再録します。
第2回「基礎科学は先が読めない、考え抜いてヤマ勘を磨く」
第3回「成功率を高めるために複数のテーマを用意した」
第4回「リーダーは目標を示して、あとは若手に任せてみよう」
第5回「筆記試験では測れない能動的な能力こそが大事」
第1回
理論と実験は科学の両輪
一流の理論家は限界を知る
若いときの僕は決して優等な成績ではありませんでした。東大の物理学科はビリに近い成績で出ました。学生時代は生活するのに精いっぱいでアルバイト暮らしでした。ただし留学した米ロチェスター大学では研究漬けの生活を送り、1年8カ月で博士号が取れました。学位を取れば給料が上がる。それが大きなモチベーションになりました。目標がはっきりすれば一生懸命やるタイプなんでしょうね。
物理屋には理論家と実験屋の二つのタイプがあります。科学では理論がいくらきれいであっても、それが真実だとは断定できません。実験をしてみて、その理論が正しいことを検証する必要があります。どんな最先端の理論も実験で証明されなければ、あくまでも仮説です。つまり理論と実験は、互いに補って科学を成り立たせているわけです。
一流の理論家というのは実に謙虚です。自分はこういう精緻な理論をつくった、しかしそれですべての事象が説明できるなんて考えていない。本物の理論家は、理論の適用限界をいつも意識しています。しかし、二流の理論家は、自分のモデルで何でも説明できると思い込んでいる。一流に比べて二流のほうが、うんとたくさんいるのが実情です。
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