偽りの「帰国だ」で収容所転々、たくましく生きた看護婦たち ドキュメンタリーディレクター 小柳ちひろ氏に聞く

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こやなぎ・ちひろ 1976年生まれ。同志社大学文学部卒業後、映像制作会社「テムジン」入社。2008年NHK「戦争証言プロジェクト」に参加、作品多数制作。本著は14年放送のBS1スペシャル「女たちのシベリア抑留」の取材記録。同番組は文化庁芸術祭賞優秀賞ほか数々受賞多数。(撮影:尾形文繁)
女たちのシベリア抑留
女たちのシベリア抑留(小柳ちひろ 著/文芸春秋/1700円+税/319ページ)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。
戦後、満州や樺太から日本人がソ連に連行されたシベリア抑留。数々の生々しい証言や記録、小説で極限状態での強制労働など過酷な実態が明かされている。抑留者60万人の中に、実は数百人の女性がいた。準備期間8カ月、延べ数百人に当たってドキュメンタリー番組を制作した著者の記録。

──満州からの引き揚げでは、開拓団の女性たちがソ連兵による暴力に逃げ惑った話が真っ先に浮かびます。でもこの本では、主人公である佳木斯(ジャムス)第一陸軍病院の看護婦さんたちの気丈さ、たくましさのほうがより鮮明でした。

そう、たくましい。最初に話を聞いた元看護婦さんの第一声が「シベリアではつらいと思ったことはなかったわね」でしたから。

でもそれは、彼女たちが年を経て強くなり語れるようになった部分と、社会が彼女たちの語りを知らずに来た面が強いのかなと思うんです。所属が陸軍病院なので、仲間の衛生兵や士官たちは彼女たちを好奇の目から守りました。

戦後、戦友会で手記をまとめたとき、彼女たちの手記については内々で配付し、住所録も省いた形跡があります。日本政府やソ連に対し賠償金を要求する際、その大きな連帯に女性は含まれなかった。本当は自分の体験を知ってほしくても、黙っていざるをえない環境でした。男性抑留者にも取材したことがありますが、女性のほうがつらい思い出を過去のものにしている印象はありましたね。

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