ある商店主はそう証言し、さらにこう続けた。
「そのほうが、味がいいからさ。例えば(鮮度の落ちた)ヘビの肉にはいやな臭みが出る。野生動物を売る店ではみな屠殺する生き物を素手でつかみ、防護なんてしていなかった」
そのためだろう。新型肺炎の初期の患者は西地区のブースの関係者に集中していた。しかも市場の衛生状態は劣悪で、ブースの前の通路には汚水が垂れ流され、場内の風通しも悪かった。近所に暮らす市民の間からは、市場から出る大量のゴミや悪臭、食材を運ぶトラックの違法駐車などに対する(行政への)苦情が絶えなかったが、問題は放置されたままだった。
流行性疾患の専門家による華南海鮮市場への検査から、新型コロナウイルスは野生動物の取引と関係している疑いが濃厚になった。
1月26日、中国疾病予防管理センター(CDC)は、華南海鮮市場で採取された585のサンプルのうち33のサンプルから新型ウイルスの遺伝子を検出したと発表。陽性サンプルの採取地点は22の販売ブースと1台のゴミ収集車で、それらの9割以上が市場の西地区に集中していた。
中国CDCは翌27日、「2019年新型コロナウイルスの感染状況とリスク評価」と題した報告書を発表。感染現場からの遡及調査、ウイルスの遺伝子配列の比較、病状の経過観察、血清サンプル検査などの結果から推察して、新型コロナウイルスの由来は野生動物であるとの認識を示した。
その感染経路については、2019年12月初めに華南海鮮市場の何らかの野生動物からウイルスが漏出して市場を汚染し、それがヒトに感染、さらにヒトからヒトへの感染を引き起こした可能性があるとした。
感染源は一つではない
ところが、華南海鮮市場が感染源であるとする結論に疑義を突きつけるデータが思わぬところから浮上した。イギリスの医学専門誌ランセットが1月24日付で掲載した論文のなかの1枚の図表がそれだ。
この論文は、新型肺炎の発生直後から治療に当たってきた武漢金銀潭病院の黄朝林副院長を筆頭著者とする医師グループが執筆し、2020年1月1日までに同病院が収容した41人の患者の病状を分析したもの。問題の図表によれば、最初の入院患者が発症したのは2019年12月1日だったが、この患者は華南海鮮市場に出入りしていなかったのだ。
その後、12月10日にかけて新たに3人が発症したが、うち2人は華南海鮮市場との接点がなかった。2020年1月1日までに金銀潭病院が治療に当たった41人のうち、華南海鮮市場に出入りしていたのは27人だけだった。
金銀潭病院は武漢市の救急医療センターでもあり、もともとは武漢伝染病病院、武漢結核病院、武漢第二結核病院が統合されて発足した。武漢市では唯一の、国家衛生健康委員会が指定する最高級ランクの感染症専門病院だ。その医師グループの論文だけに、いいかげんなデータではあり得ない。
筆頭著者の黄は、財新記者の取材に対してこう証言した。
「現在の総合的な発症状況から見て、(新型コロナウイルスの)感染源は華南海鮮市場だけではなく、複数ある」
ただし黄は、ウイルスの由来は野生動物である可能性が高いとの見方には同意している。
(文中敬称略、初出:「財新週刊」2020年2月3日号)
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