6月12日にシンガポールで行われる予定の米国のトランプ大統領と北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)・朝鮮労働党委員長の首脳会談を前にして、北朝鮮と米国の情報戦が活発化している。その結果、これまでの外交の文法では読み解けない事態が発生している。現下の米朝間の駆け引きを精確に分析すれば、21世紀型の「新しい外交」の特徴がわかる。
5月16日、北朝鮮の金桂官(キムゲグァン)・第一外務次官が、米国のボルトン国家安全保障担当補佐官を名指しして厳しく批判した。北朝鮮政府が事実上運営するウェブサイト「ネナラ」(朝鮮語で“わが国”の意味)に掲載された日本語訳から興味深い部分を引用しておく。
〈朝鮮民主主義人民共和国国務委員会委員長である金正恩同志は、朝米関係の忌まわしい歴史を終わらせようとする戦略的決断を下して朝鮮を訪問したポンペオ米国務長官に2回も接見し、朝鮮半島と世界の平和と安定のために実に重大、かつおおらかな措置を取った。/金正恩委員長の崇高な志に応えてトランプ大統領が歴史的に根強い敵対関係を清算し、朝米関係を改善しようとする立場を表明したことについて私は肯定的に評価し、近づく朝米首脳会談が朝鮮半島の情勢緩和を促し、立派な未来を建設するための大きな歩みになるであろうと期待した。/ところが、朝米首脳会談を控えている今、米国で対話の相手を甚だしく刺激する妄言が連発しているのはきわめて穏当を欠いた行為として失望せざるを得ない。/ホワイトハウス国家安保補佐官のボルトンをはじめホワイトハウスと国務省の高位官吏らは、「先核放棄、後補償」方式を流しながら、いわゆるリビア核放棄方式だの、「完全、かつ検証可能で、不可逆的な非核化」だの、「核、ミサイル、生物・化学兵器の完全廃棄」だのという主張をはばかることなくしている。/これは、対話を通じて問題を解決しようとするのではなく、本質上、大国に国を丸ごと委ねて崩壊したリビアやイラクの運命を尊厳あるわが国家に強要しようとする甚だしく不純な企図の発現である。/私は、米国のこのような行為に憤激を禁じ得ず、果たして米国が真に健全な対話と協商を通じて朝米関係の改善を願っているのかについて疑うようになる。/世界は、わが国が凄惨な末路を歩んだリビアやイラクではないということについてあまりにもよく知っている。/(中略)もし、トランプ大統領が先任者らの轍を踏むなら以前の大統領らが成し遂げられなかった最高の成果物を収めようとしていた初心とは正反対に歴代の大統領よりもっと無残に失敗した大統領に残ることになるであろう。〉(5月17日「ネナラ」日本語版)
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