現実の政策に携わった安全保障学者の集大成
評者 東洋英和女学院大学客員教授 中岡 望
本書が出版された2014年、著者は91歳であった。本書を読みながら感じたことは、著者の驚異的ともいえる知的エネルギーである。本書は著者の安全保障専門の政治学者としての集大成と言ってもいいだろう。学者であるだけでなく、大統領の補佐官、国務長官という立場で現実の外交政策に携わってきた。本書の随所で語られる逸話は、そうした経験から出てきたものである。
現在、世界の秩序は大きく揺らいでいる。本書のテーマは、新しい世界秩序を構築するには何が必要なのかである。著者は世界秩序の理想的な規範を、カトリック教とプロテスタントの間の30年戦争を終わらせる目的で1648年に締結されたヴェストファーレン和平条約に求める。同条約によって相対立する欧州諸国の間に「民族独立」「国家主権」「国益重視」「内政不干渉」という秩序がもたらされた。さらに言えば、「力の均衡」で平和が維持される体制が確立した。これによって道徳の原理が政治活動から切り離された。
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