日本で急がれる成長と親和的な法制度
評者 慶応義塾大学経済学部教授 土居丈朗
アベノミクスは失敗したのか。民間投資を喚起する成長戦略を掲げた第2次安倍晋三内閣以降の経済成長は、停滞と言うべきか回復傾向と言うべきか。消費増税が物価上昇に与えた影響が終わった2015年4月以降も、実質賃金の上昇は遅れている。昨年や今年の春闘は「合意形成型春闘」とも呼ばれ、政府が賃上げを働きかけたが、労働生産性が高まらなければ実質賃金も上がらない。消費増税のせいばかりにはしていられない。
本書は、人々の生活水準を向上させる経済成長の推進力として、イノベーションに焦点を合わせている。そして、制度的枠組みをどう変更すればイノベーションや経済成長を高めることができるかを探究し、法と経済学をその方向で変革することをも目的としている。従来の法と経済学の知見を生かしつつ、法制度の改革によるイノベーションと経済成長の促進に挑戦している。
わが国で成長戦略というと、規制緩和による既得権益の打破や、成長が期待される産業をターゲットにした減税や補助金等の投入が焦点となりがちである。しかし本書は、法律を、システムや体制ではなく、インフラとしてとらえ、競争的な市場を支え、民間の自由な起業や発明を促すことに力点がある。違いを強調すれば、日本では現行の法体系は原則的に維持しつつ新たな風穴を開けて起業や研究開発を促す形だが、米国を意識した本書の提言は、IT革命やデジタル化に象徴される新時代に対応すべく、法制度を根本的に見直すという発想に基づいている。
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