シティズンシップ踏まえ多文化の社会統合を考察
評者 東京外国語大学大学院教授 渡邉啓貴
欧州は多難な時期を迎えている。人の移動の自由は伝統的な国民国家の枠を取り払う、いわば欧州統合の夢である。しかし昨年パリでの2回に及ぶ同時多発テロ、「アラブの春」とシリア内戦による大量難民の発生は、「人の自由移動」という理想が欧州統合という壮大な歴史的実験の行方を阻むという逆説をもたらした。本書は人の移動と欧州統合について40年の研究を重ねた国際社会学の泰斗のライフワークの全貌の輪郭、そしてエッセンスを集約的に著した労作である。
本書の出発点は、著者が若き日に留学したときの「フランス病」と呼ばれたフランス社会の原風景にある。1970年代、高度経済成長の行き詰まりは先進社会の凋落を意味した。フランスの体系的社会学の始祖デュルケームの研究から出発した著者がそうした時代の節目にあって、先進社会の歪みの底辺にある移民の動向に無関心でいられなかったことは容易に想像がつく。著者自身語っているように本書の関心は、「広義のイミグレーションの政治社会学」にある。具体的には70年代以後先進社会のモデルであった西欧国民国家が動揺し、労働力として戦後欧州各国に大量に流入した外国人が定住し始めたとき、西欧社会は異文化摩擦と本格的に対峙することになった。
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