許されるのは一般意思を体現している場合
評者 中央大学商学部教授 江口匡太
いつまでも政治への不満がなくならないのは、異なる考えを持つ複数の人たちの意見を一つに集約しなければならないからである。どうしても万人があらゆることに満足するというわけにはいかない。本書は、この難題を扱う社会的選択理論をやさしく解説したものである。普段当たり前に用いている単純な多数決の問題点や、多数決以外のさまざまな決め方の特徴をわかりやすく紹介している。
本書で紹介される民意の集約についての研究成果は、本来技術的なもので、価値判断に依存しない数理的な学術成果が中心である。昨今議論になっている憲法改正の3分の2条項も、その根拠の一つを極めて数理的に、普遍的な真理として説明できることがわかるだろう。
一方、理論のわかりやすさとは対照的に、民意を集約することの難しさを読者は改めて感じるはずだ。選挙で勝利した候補者や政党は、自分たちこそが「民意を反映している」と言うが、小選挙区制と比例代表制では異なる結果になるように、民意の分布は同じでも、選び方が変われば勝者は変わってしまう。本書で再三示されるように最善のルールが存在しない以上、民意なるものを集約した形でそもそもとらえられるのか、読者は疑問にすら感じるであろう。
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