政権交代の政治経済学 期待と現実 伊東光晴著 ~期待が危惧へと変わり 第三世代の登場を待望
ケインズ研究の第一人者であり、鋭い時論でも定評がある著者は「ネオリベラリズムの小泉・竹中・宮内路線は不平等も、貧困も放置した。それへの反対、批判が民主党政権に期待を寄せた」と言う。実際、子ども手当や公立高校無償化などの家計支援策は、「ワーキング・プアを生んだ現実を重視し、生活重視へハンドルを切ろうとする」新政権の誕生がなければ実現できなかった政策転換だ。
もちろん、政権交代後の政策には著者が指摘するように「ぎくしゃくした」面も見られる。八ッ場ダム建設中止に象徴されるダム建設政策の転換は画期的だが、高速道路無料化には環境への配慮やエネルギー政策の視点が欠けている。また「自然は飛躍せず……直ちに多くを望むことはできない」としても、「欠陥のある消費税を福祉のための税として欧州型の付加価値税に改めることは」、政権の方向性を示すうえでも早急に取り組むべき課題である。
そして何より政権与党になった以上は、野党との対抗軸を明確にして選挙に臨むことが重要だと言う。そうでなければ、保守党の市場原理主義に最後まで対抗できなかったイギリスの労働党のように、またブッシュ時代の政策スタッフを数多く引き継いだアメリカのオバマ政権のように、日米外交と成長政策の両面で自民党との違いを打ち出せず参議院選挙で敗北した日本の民主党は、次の総選挙でも敗退する可能性があるからだ。
著者は大学院時代の指導教授だった都留(重人)氏だったら「普天間問題……をどう考えるか」として、「自らに課してきた、経済分野に発言を限定する……禁を侵し」、本書で「日米関係に言及」する。批判の矢は鳩山内閣時代の岡田外相に向けられる。「時間をかけても対米交渉を行えばよかった」にもかかわらず、自民党と同じレールに乗り「対米合意を先行させ……鳩山首相は辞任に追いこまれた」のだと言う。