陸上養殖で地元を過疎から救え!高校生の探究、事業化の現実味 大津緑洋高校の生徒「アクアポニックス」普及へ
フグの販売などを行う喜楽の白石迅さんは、4年前にUターンして個人的に別のプロジェクトで生徒たちと関わってきたが、今後は会社単位でフグの飼育に協力していくという。「長門市のために頑張ってくれている高校生を応援したい、一緒に地元を支える仲間を一人でも多くつくりたいという思いです」(白石さん)。
各関係者をつないでプロジェクトを支えてきた岩本隆行教諭は、「多様性に富んだチームが出来上がったことが強み」と強調する。この土壌を生かすべく、現在、名古屋大学の山本真義教授を中心にベンチャー化について協議中だ。
「地元を大切に思う高校生の柔軟な発想から、新しいビジネスの立ち上げができないかと考えています。ここでの成功が、人口減少に悩む地域のケーススタディーになるかもしれません。教育モデルという観点では、実効的なビジネスへの落とし込みや学会発表までを出口とする新しい高大連携を進めていきます」(山本真義教授)
水産大学校の山本義久教授も、大きな期待を寄せる。
「国内外のアクアポニックスでの養殖はティラピアなどの淡水魚が主流ですが、生徒たちが扱うのは、国内で取引需要が高く海外展開も可能な海水魚。さらに同時栽培できる種もどんどん探究しているので、絶滅危惧種など高付加価値化が望める野菜のバリエーションも増えていくでしょう。企業や大学にはまねできない、柔軟な発想とパワフルなトライアルの仕組みが出来上がっており、ビジネス化のポテンシャルが非常に高いと思っています」(山本義久教授)
これまで費用は、長門市の補助金や関係者の資金で賄ってきたが、組織が拡大したことから2021年末にクラウドファンディングを実施。目標の200万円を超える336万7000円が集まったため、施設の拡充やホームページの開設などを行う。
しかし、課題も多い。山本義久教授は、「研究を具現化するベンチャー企業をつくるには、人材や資金を集める必要があります。そのため、プロジェクト全体のストーリーを語れるリーダーの育成が急務」と、指摘する。
そこを担うとして期待されているのが、3年生だ。卒業後もプロジェクトに関わりたい、地元を出たとしても必ず戻ってきたいと考えている生徒が多く、ベンチャー化にも意欲的だそう。
安岡さんも「電気を使わない冷却や自動給餌システムの構築、遠隔での温度調節などを低コストで実現し、DX(デジタルトランスフォーメーション)で付加価値をつけて6次産業化を目指す」と話す。そのためにも大学生となる自分たちと高校生の連携を強化し、より主体的な組織にしていきたいという。
探究活動が発展し、社会実装に向けて動き出した「大津STEAMプロジェクト」。若き当事者たちの主導による、新たな高大連携が今後のカギとなりそうだ。
(文:酒井明子、写真とイラスト:山口県立大津緑洋高等学校提供)
東洋経済education × ICT編集部
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