水ビジネスの幻想と現実[1]--脚光浴びる“86兆円産業”、日本勢に勝算はあるか
こうした中、住友商事は9月中旬、水事業の中国企業最大手である北京首創との合弁会社設立を発表。新設する合弁会社は北京首創が実質的な経営権を握るが、住友商事側も4割を出資して副社長クラスの役員を派遣する。同社を通じてまず山東省など3カ所の下水処理事業に参画し、3年内にはBOT案件獲得や自治体からの浄水・下水処理施設買収などで500億円規模の投資実行を目指すという。
中国では丸紅が現地の下水処理業者に出資し、三井物産は華僑人脈を持つシンガポール企業と、そして住友商事は現地の有力企業との合弁の道を選んだ。各社がこうした形を採ったのも、日本企業だけの力ではいつまで経っても中国の水インフラ需要に絡めないと危機感を募らせたからだ。
世界各地で相次ぐ新規参入 日本勢のライバル激増
中国での現実は、海外での水インフラ商売における2つの難しさを示している。一つは、自治体が関与する上下水道分野は各種インフラの中でも特にローカル性が高く、海外企業には高い参入障壁が存在すること。そして二つめは、もはやライバルは水メジャーだけではないという事実だ。中国に限らず、近年は世界各国で水分野への参入企業が続出。こうした新規参入組が「地の利」を活かして自国内で事業を伸ばしているため、かつては民営化市場を独占していた欧州主要企業の世界シェアも年々下がっている(グラフ参照)。海外でプロジェクト獲得を狙う国内勢にとって、行く手に立ちはだかるライバルは数多い。
25年の市場は世界で86兆円--。この数字には続きがあって、経済産業省が同じ報告書の中で「わが国の水ビジネス関連産業が(25年に海外で)目指す目標」として掲げた売上高は1・8兆円。現在の10倍以上とはいえ、巨大な市場規模予測に比べると、拍子抜けするほど金額は小さい。業界関係者が苦笑いしながら言う。「それだけ現実は厳しいということ。経済産業省もそこはよくわかっている。80兆円だ100兆円だとマスコミやコンサルタントは囃し立てるが、実際は取れもしない潜在市場の大きさを騒いでいるにすぎない」。