水ビジネスの幻想と現実[1]--脚光浴びる“86兆円産業”、日本勢に勝算はあるか

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中国はこれまで下水処理インフラが乏しく、人口・産業が集中する都市部では河川などの汚染が深刻化。危機感を募らせた中国政府は、経済・産業政策のグランドデザインとなる「第11次5カ年計画」(06年-10年)の中で、都市部の汚水処理率を70%まで引き上げる目標を掲げ、汚水処理インフラの整備を急いでいる。

こうした国家政策によって処理場の数は約2200カ所にまで増えたが、それでもまだ沿岸大都市部の整備が一巡した程度に過ぎない。内陸寄り都市部でも本格的なインフラ整備が始まり、現在建設中の施設や計画進行中のプロジェクトは2000カ所近くに上る。しかも、上下水道事業を担う自治体には財政的な余裕がないため、資金調達や建設・操業を丸ごと民間企業に任せるBOT方式のプロジェクトが数多い。日本勢が海外で実績を作る絶好のチャンスである。

ところが、これだけのプロジェクトがありながら、日本企業が獲得した案件はいまだ1件もない。中国の水ビジネスに詳しいチャイナ・ウォーター・リサーチ(CWR)の内藤康行代表によると、仕事を取っているのはもっぱら中国の現地企業だという。先行して作られた沿岸大都市部の大型処理場では、ヴェオリアなど経験豊富な欧州企業の受託が目立ったが、内陸寄りの中規模施設に舞台が移るにつれて勢力図は一変。今では現地の中国企業同士が、新設インフラを巡って熾烈な獲得競争を繰り広げている。

国家政策を背景とした下水処理場の建設ラッシュは、地元の中国企業にとっても大きなビジネスチャンス。当然のごとく、中国勢も水のインフラ分野に続々と参戦し、今やその数は大小含めて200社以上。地方政府の水道事業の一部から分離した企業などが多く、中でも北京首創、天津創業環保、北控水務の政府系3社、純民間では桑徳環境などが下水処理分野を中心に事業を急拡大させている。

そこに日本企業が割って入るのは至難の技だ。「上下水道インフラは地方行政が相手のビジネス。入札形式とはいえ、人脈のない日本企業はただでさえ入りづらい。そのうえ、これだけ現地の事業者が増えてしまっては、もはや日本企業の出る幕はない」とCWRの内藤代表は指摘する。施設内で使用する設備や装置にしても、上下水道に関して言えば、現地企業で十分に対応できる。

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