中国で大成功する新企業所有「合肥モデル」とは 純国有でも純民間でもない灰色所有構造がはやり

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新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が始まった2020年前半、中国の電気自動車(EV)メーカー、蔚来汽車(NIO)は破綻の瀬戸際にあり、米テスラのライバルになると期待を寄せていたベンチャーキャピタルや外国人投資家からも見放されていた。この時、米ナスダック上場のNIOに手を差し伸べたのは中国共産党だ。

安徽省の省都、合肥市はNIO中核事業の株式17%を50億元(約910億円)で取得。同社は幹部を上海から合肥に移し、上海から内陸に500キロメートル近く内陸に入った合肥で増産を始めた。中央政府と安徽省も出資に参加した。

合肥市にあるNIOの工場写真家:Qilai Shen / Bloomberg

民間企業への規制と関与を強める習近平政権の特徴的な動きにも見えるかもしれない。だがそう単純な話ではない。

NIOは21年の早い時期に初めて黒字に転換し、同年末までに9万台余りを売った。合肥市は出資を通じて経営権を握ろうとするのではなく、株式取得から1年以内に持ち株の大半を売却。ロンドンやニューヨークの民間投資家のように、NIOの株価急騰に合わせ保有株を手放し、最大で5.5倍のリターンを確保した。

合肥市トップの虞愛華・党委員会書記は昨年6月のテレビ放送されたイベントで、「NIOへの投資でわれわれは遠慮なく稼いだ」と述べた。同社創業者の李斌氏は「政府のために稼ぐことに戸惑いはない。人民のために稼いでいる」と語った。

中国式資本主義の変化

中国の資本主義はここ数年で一段と変化しており、地方政府が民間企業の少数株主となる事例が増えている。合肥市はいわばパイオニアだ。1950年代から科学研究の中心地だった合肥市は、巧みな投資により人口約500万人の活気ある大都市に変貌。経済成長という観点からすれば中国メディアが「合肥モデル」と呼ぶ手法が機能しているようで、2020年までの10年間、合肥の域内総生産(GDP)は目覚ましい伸びを記録した。

Chart: A Winning Strategy
  

合肥市が初めて出資を成功させたのは、1993年創業の電子ディスプレーメーカー、京東方科技集団(BOEテクノロジー・グループ)だ。2008年の金融危機後にBOEがトラブルを抱えると、11年までに18%出資した。同社は最先端の液晶ディスプレー(LCD)スクリーン工場を建設。合肥市はその後もBOEへの投資を続け、別の新工場建設を支援するとともに利益を確保。同社は同市に数万人単位の雇用をもたらした。BOEは21年、韓国のサムスン電子を抜き、薄型テレビ用LCDスクリーンで世界最大のメーカーとなり、この分野での中国の外国サプライヤー依存を終わらせた。

BOEの有機ELディスプレー試作品(北京)写真家:Gilles Sabrie / Bloomberg

 

米シカゴ大学と中国の清華大学、香港中文大学の研究者は、中国のあらゆる登記企業3700万社余りを分析。これらの企業が最終的に6200万人および中央政府から市や村に至る約4万の公的機関・組織によって所有されていることが判明した。つまり中国の「資本家」総数は6200万ということになる。

ブルームバーグ・マーケッツ誌2・3月号Illustration: Sija Hong for Bloomberg Markets

地方政府系を中心に公的機関の所有企業は、民間企業との関係を強化している。公的機関の平均的ステークホルダーは現在、民間オーナー約16人が所有する企業に投資しており、10年前の8人から倍増。1社当たりのオーナー平均数は変わっておらず、各公的ステークホルダーが投資する民間企業の数がほぼ倍増したことを示唆している。

主要起業家と国とのつながりは深まっている。19年時点で最も裕福な個人所有者7500人(所有企業への投資資本の規模から判断)の半数強が、公的機関が投資している1社以上を所有していた。

シカゴ大ブース経営大学院教授でこの調査プロジェクトに携わったチャンタイ・シエ氏によれば、「完全な国有企業でもなく本当の民間会社でもない」企業がトレンドだ。「この曖昧な灰色の領域が今、中国で支配的だと私が考える企業構造だ」と同氏は話している。

NIOのEV工場、10万台目が完成写真家:Qilai Shen / Bloomberg

原題:China’s Communist Officials Are Learning to Love Venture Capital (抜粋)

(原文は「ブルームバーグ・マーケッツ」誌に掲載)

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著者:Tom Hancock

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