3年で新しい中高一貫校を10校も開校

公立の中高一貫校が増えている。1998年に文部科学省が学校教育法の一部を改正して以来、公立でも設置ができるようになったことから一気に全国に広がった。その目的は、中等教育のいっそうの多様化にあるが、私立と比べて経済的負担が少ないことや、比較的短期間で対策ができる適正検査による入試であること、何より高校受験がなく、6年間を通して一貫した教育が受けられることから保護者の人気を集めている。

今、この中高一貫校を、ものすごい勢いで増やしているのが茨城県だ。

中高一貫校には、1つの学校として一体的に中高一貫教育を行う「中等教育学校」、同一の設置者が高等学校の入学者選抜を行わずに中学校と高校を接続する「併設型」、異なる中学校と高校が連携して(市町村立中学校と都道府県立高等学校など)中高一貫教育を行う「連携型」の3つのタイプがある。

もともと茨城県には、中等教育学校の並木、古河と、併設型の日立第一の3つの中高一貫校があったが、2020年度に太田第一、鉾田第一、鹿島、竜ヶ崎第一、下館第一、21年度に水戸第一、土浦第一、勝田を一貫化(勝田のみ中等教育学校、そのほかは併設型)。来年22年度には水海道第一、下妻第一を開校し、計13校にまで中高一貫校を増やす

その理由について、茨城県教育庁は「かなりの成果が出ているから」と話す。中高一貫校に対する根強い保護者ニーズはもとより、6年間を通して計画的かつ継続的に探究活動に取り組むことができるなど課題解決能力が育っているほか、進学実績が大きく伸びているという。そこで、県全体をカバーできるように多くの中高一貫校を開設してきたのだ。

21年は、県下トップの高校を中高一貫化したが、志願倍率は水戸第一で4.53倍、土浦第一で3.29倍の高倍率となった。ほかにも並木や竜ヶ崎第一など、人口が多いところを中心に倍率が高くなっている。茨城県は、東京に近く企業誘致が盛んな土地柄だ。そうした転入者の子息のほか、今後はより学校ごとの特色を出しながら他県からの受験ニーズも取り込みたいという。

※ほかに連携型の小瀬があるが、茨城県教育庁は県内の「中高一貫教育校」の数には入れていない

民間の転職サイトに「校長公募」を掲載

茨城県が、こうした大胆な施策に打って出るのは、少子化に対する危機感がある。子どもの数が少なくなり、学校の小規模化が進むと活力が失われてしまう。そこで「県立高等学校改革プラン」を策定し、学校の再編も含めた多様で魅力ある学校づくりに努める中で、県立高校の中高一貫教育校への改編も進めてきた。

こうした改革を、さらに推進するための一手が校長公募だ。すでに茨城県では、19年に教員免許、経験不問の校長公募を実施し、民間人から2名を採用。県下の中高一貫校で1年間、副校長としての経験を積み、21年4月から校長として手腕を振るっている。

「われわれだと、どうしても今までの流れを意識してしまいます。自身の人脈などを駆使しながら探究活動を行ったり、生徒が主体的に校則を見直すよう仕向けたり、いろんな視点で新しい取り組みを仕掛けてくれています」と茨城県教育庁学校教育部高校教育課 人事担当課長補佐の庄司一裕氏は話す。一方で気になるのが、周りの反応だが、旧態依然をよしとしない先生も多く前向きに捉えられているという。

その後、茨城県は20年にも校長公募を行っている。だが、約30人ほどと19年より応募数が半分程度だったのに加え、新しい視点を持つような適任者が見当たらず採用を見送っている。

どうしたら優秀な人材が集まるのか……。県や学校のホームページ、関係者のネットワークを通じた募集だけでは限界があると考え、21年の校長公募では民間企業のエン・ジャパンに協力を依頼した。ビジネスパーソンの転職サイトとしてよく知られる「エン転職」「ミドルの転職」に、求人情報を掲載したのだ。

募集は5名。今回は初めて年齢制限を撤廃、企業に在籍しながらの出向もOKにして、オンライン選考も導入した。広く周知をしたい、さまざまな方面の人材に応募してほしいという考えからで、その切なる思いは募集ページに書かれた「求める人材像」にも表れている。

この問題を解ける方、お待ちしています。
【問1】Aさんの通う中学は、全校生徒300人。3年間の学校授業だけですべてを理解できた生徒は、全体の3割でした。そんな教育に意味はあるのでしょうか。理解力や得意・不得意の異なる生徒全員が、笑顔になれる授業スタイルを考えてください。

【問2】Bさんはテストでいつも100点でした。もちろん、高校・大学受験に成功。でも、社会に出たあと活躍できませんでした。そんな教育に意味はあるのでしょうか。受験のための勉強ではなく、人生を豊かにするカリキュラムを考えてください。

【問3】Cさんの通う学校の教育方針に疑問を抱く人はいません。でも、Dさんから見れば、[ア]という課題があります。なぜなら[イ]であり、解決するには[ウ]が必要です。あなたなりの[ア][イ][ウ]を埋めてください。

――悲しいことに、上記問題に答えられる教育者は多くありません。そこで今回は、「学校教育を変えたい」という情熱をお持ちの方を、広く募りたい。教員免許や業界経験は不問。常識にとらわれない校長として、学校教育を改革してください。

出所:エン・ジャパン運営『エン転職』

教育に興味のある人は多いのに、情報が少ない

その結果、募集期間約6週間(8/19〜9/29)で1673名もの人から応募があった。年齢は40〜50代で8割以上、中には20代もいたという。応募資格として、民間企業や官公庁での管理職経験者を求めたことから、マネジメント経験のある大企業の管理職や起業家、国家公務員など幅広い業種、職種から多くの人材が集まった。

1次は書類審査、2次はオンライン面接、3次は対面とオンラインで選考を行った。応募者のこれまでの経験はもちろん、学校現場で何に取り組みたいのか、校長としての抱負などを確認した。茨城県側も民間企業の“時間軸”に合わせてスピーディーに採用を進めたという。そして最終的に、4名を採用した。1673名から応募があったものの、予定していた5名を採用しなかったところに本気度を感じる。決め手はいったい何だったのか。

「合格した4名の方は、これまでのキャリアもビジョンも突出していました。教育現場での経験はありませんが、県立の中高一貫校の校長をぜひお任せしたいと思わせる方々でした」(庄司氏)

なぜ、こんなにも多くの応募が殺到したのだろうか。採用を支援したエン・ジャパンとしても、校長公募の求人を掲載するのは初めてだったというが、同社で自治体や官公庁の採用支援を担当する水野美優氏はこう分析する。

「官公庁や自治体への転職に興味がある方が約9割、その中でも教育は興味のある分野としてかなりの上位という調査結果があります。一方で、官公庁や自治体の転職情報、仕事の内容に関する情報は少なく、不安に思う方が少なくない。そこで今回は、募集ページでも、茨城県が校長を公募する背景や仕事内容について詳細に伝えられるよう努めました。これまで茨城県が、民間から採用した実績があったことも安心感につながった。公教育に直接関われる機会は貴重とあって、意欲の高い方々を集めることができたと考えています」

00年、文科省が学校教育法施行規則を一部改正し、校長の資格要件を緩和して以降、教員出身ではない校長の登用は増えている。だが、より広い視点で優秀な人材を学校のトップに据えたいと考えるならば、前例にとらわれずに潜在層に確実に情報を届ける手立てを検討してみる価値がありそうだ。

(文:編集チーム 細川めぐみ、注記のない写真:iStock)