60年通知表がない公立小の凄い「探究型総合学習」 伊那小「時間割もチャイムもない」深い理由

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新学習指導要領のスタートを受け、探究型の授業に取り組み始めた学校や教員も多いだろう。そんな中、1998年告示の学習指導要領において「総合的な時間」が設けられるより前、実に40年以上も前から探究的な総合学習の実践に取り組んできたのが、長野県伊那市立伊那小学校だ。通知表も時間割もチャイムもない、動物を飼育している――そんなユニークな教育活動で知られるが、いかにして子どもたちの主体性を尊重した実践を続けてきたのだろうか。

ヤギやブタの飼育から建築まで体験!

長野県伊那市立伊那小学校の最大の特徴は、教育課程の中心に「総合学習」「総合活動」を置いていることだ。全学年が、学級単位で探究的なテーマに取り組んでいる。1・2年生では、そのテーマを通じて「自然・社会」「言語」「数」「表現」「道徳教育」「特別活動」の領域を統合的に学ぶ「総合学習」を展開。3〜6年生は、テーマに沿った「総合活動」を中心に教科学習なども並行して学んでいく。

1つのテーマの実践期間は、1〜3年生、4〜6年生の各3年間ずつ。1年生と4年生の時に、子どもたちが取り組むテーマを決める。外部からよく注目されるのが、低学年で多く採用される動物飼育だ。現在、1年生は、ヤギ、ウズラ、ミニブタなどの飼育がテーマとして選ばれている。今年度は4年文組もブタの飼育に挑んでいるが、「その学びはまったく異なります」と同校校長の福田弘彦氏は言う。

ブタの飼育をする4年文組

「1年生は『かわいいから一緒にいたい』という情緒的な求めが契機になるのに対して、4年生は『給食の食べ残し』がきっかけとなりました。給食や食材を作っている人がどんな思いかを考え、実際にホウレンソウ農場を見学するなどの経験を通じて『ブタを育てて食べてみよう』というある児童の提案へと発展していったのです」

文組は今年9月下旬、養豚農家から子ブタを譲り受けて育てている。出荷して食肉業者から買い取る計画も持ち上がっており、実際に買い取った場合は、食べるか食べないかの選択を各自に委ねるつもりだ。子ブタの世話を通して動物を育てる責任や命の尊さ、その命をいただいて生きている重みを知ることだろう。

高学年では、例えば6年秋組は、4年生の時から近所の林で「林のくらし」をテーマに活動を続けている。これまでクラスの友達が泊まれるよう家を建てたり、間伐材を使っていすなどの家具を作ったりした。

6年秋組は、4年生の時に家を建てた(左)。炭作りは5年生の時に興味を持った(右)

畑で採れたものでバーベキューをしたことを機に炭焼きに興味を持ち、今も炭作りに励む。林業など専門家にアドバイスをもらうなど、活動やコミュニケーションは地域にも広がっている。

「60年以上通知表なし」「時間割やチャイムもなし」の真意

各学級のテーマは、子どもたちが話し合って決める。教員側から題材を与えたり提案したり、ある方向へ誘導したりすることはいっさいない。

「本校は学校を離れて外へ出ていくことを大切にしており、子どもたちが出合った自然環境や社会環境の中で興味を持ったものを、担任が学習の芽として捉えます。そして、それを子どもたちの中で膨らませたり耕したりする支援をしながら、子どもたちが自然に探究したいと思うテーマが醸成されるのを待ちます」

石窯でパンを焼く5年山組。各学級のテーマは子どもたちが話し合って決める
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