60年通知表がない公立小の凄い「探究型総合学習」 伊那小「時間割もチャイムもない」深い理由

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とはいえ、公立校のため人事異動がある。実践経験が豊富な教員が他校に異動してしまうことはもちろん、探究型の実践に取り組んだことのない教員や初任教員が赴任してくる環境だ。伝統の子ども観を深く根付かせるのは、容易ではない。

「大半の教員が、『変わった学校なんでしょう』『動物がいるらしい』と思いながらやってきます」と、福田氏は笑う。そんな中、どうやって教育活動のクオリティーを保っているのか。大きなポイントは、同校の「同僚性」にあるという。

同僚性とは、同僚の教員同士が授業を見合い、議論を重ねて互いに授業力を高めていく関係やあり方を指す。この同僚性を生かした環境づくりに力を入れているのだ。

まず年度の初めに数回、全教員で子ども観について学び合う機会を設けている。4〜10月までの間には月に1~2回のペースで授業研究会を開き、全教員が各学級の授業を参観して相互にフィードバックを行う体制にしている。

また、職員室とは別の「連学年室」を設置。教員たちは1・2年生、3・4年生、5・6年生、特別支援学級の4グループに分かれ、放課後、各連学年室で年間活動計画の進捗状況を話し合ったり、毎年2月に行う「公開学習指導研究会」に向けて作成する「研究紀要」について相談したりしている。

「総合学習ではみんな苦労したり悩んだりしてきていますので、連学年室でそれをざっくばらんに意見交換している姿が見られます。子どもの様子や活動の悩みだけでなく、プライベートに関わる困り事や愚痴も共有されていますね。非常によい同僚性が育まれており、これが本校の実践を支えています」

伊那小学校の「アフターコロナの課題」とは?

コロナ禍やGIGAスクール構想によって、同校の風景にも変化が見られた。「低学年がタブレット端末を持って生活している様子は驚きです」と、福田氏。子どもたちは、1人1台のタブレット端末を使って調べ学習をしたり、興味を持った対象の写真を撮ってクラウドで共有したり、積極的に活用しているという。しかし、「ICTは直接の体験に及ぶものではない。目的ではなく手段だということが教員共通の認識です」と、福田氏は強調する。

「本校の教育の拠り所は、『内から育つ』という『子ども観』と、それを受け継いでいく教員間の揺るがない『同僚性』です。しかし、教員の働き方改革が課題となっている昨今、長時間にわたって議論を交わすことは少なく、連学年室で同僚性を育む時間をどう確保していくかは考えていきたいと思います。コロナ禍での活動制限も苦しかった。よかった変化は残しつつも、いかにして本校らしさを大事にしていくかがアフターコロナの課題です」

時間や環境に制限がある中、枠にとらわれず、子どもたちの「主体的・対話的で深い学び」をどう実現していくのか。これは同校だけではなく、全国の学校の共通課題であるのかもしれない。

(文:田中弘美、写真はすべて伊那市立伊那小学校提供)

制作:東洋経済education × ICT編集チーム

東洋経済education × ICT

小学校・中学校・高校・大学等の学校教育に関するニュースや課題のほか連載などを通じて教育現場の今をわかりやすくお伝えします。

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