睡眠不足が脳の発達や自尊感情を脅かす深刻実態 「睡眠教育」の推進で不登校数が減少した例も
「入眠後の深いノンレム睡眠(脳も体も眠っている睡眠)が成長ホルモンの分泌を促すことはよく知られていますが、この10年間で、子どもの睡眠は脳の発達と関係があることもさまざまな実験から明らかになっています。子どもの脳は内外からいろいろな刺激を受けて新しい神経回路を形成し、不必要なものを除去するというサイクルを繰り返して発達していくことや、とくにレム睡眠(夢見の睡眠で、脳は起きていて体が眠っている睡眠)のときに新しい神経回路が形成されることなどがわかってきた。つまり、レム睡眠の多い乳児期から12歳ごろまでの間、きちんと睡眠を取らないと脳の発達に影響があるのです」
米スタンフォード大学医学部精神科教授、同大学睡眠生体リズム研究所(SCNL)所長、ブレインスリープ創業者兼最高研究顧問、医学博士、精神保健指定医、日本睡眠学会専門医。1987年、大阪医科大学大学院から米スタンフォード大学医学部精神科睡眠研究所に留学。「ナルコレプシー」の原因究明に全力を注ぎ、2000年にヒトのナルコレプシーの主たる発生メカニズムを突き止めた。睡眠・覚醒のメカニズムを、分子・遺伝子レベルから個体レベルまでの幅広い視野で研究。著書に『スタンフォード式 最高の睡眠』(サンマーク出版)
(写真:ブレインスリープ提供)
だから、睡眠を妨げる睡眠障害にも注意したい。代表的なのが、睡眠中に呼吸停止が繰り返される「睡眠時無呼吸症候群」(SAS)。大人では、中等度の症状である場合、8~9年の間に4割が死亡するという恐ろしい病気だ。ブレインスリープが今年2月に行った調査では、SASの人は新型コロナウイルスやインフルエンザにかかるリスクが高いという結果も出ているそうだ。
「子どもの場合、SASの主な原因は扁桃肥大。睡眠の質が悪くなると成長ホルモンの分泌が少なくなるため、SASにより低身長になる場合もあります。実際、低身長の子にSASの治療をしたら身長が伸びたケースは少なくありません。また、子どもは大人のように『昨日眠れなかった』と言葉にすることがあまりないので周囲も気づきにくく、イライラしたりすぐ怒ったりとADHD(注意欠陥・多動性障害)のような症状として表れることが多い。ADHDと診断されたものの実はSASで、治療したら症状が消えたという例も多く報告されています。低身長やADHDの症状が見られる場合、睡眠障害も原因の1つとして考えたほうがいいでしょう」
寝ぼけや夜泣きなどの「睡眠時随伴症」は、年齢を重ねると症状がなくなることが多いという。西野氏の専門である「ナルコレプシー」という睡眠障害もある。過眠と金縛り発作のほか、喜んだり笑ったりすると全身の力が抜けて倒れてしまう脱力発作が生じる病気だ。2000人に1人というまれな疾患だが、好発年齢は12~14歳くらいの思春期だという。
こうした睡眠障害を見極めるのは難しいが、子どもの心身の健康のために大人がまずやるべきことは、睡眠習慣を整えてあげることだ。そのためには「保護者への啓発が重要」だと西野氏は指摘する。早寝の重要性を保護者が理解し、家族ぐるみで睡眠時間を確保する必要があるという。

















