5年間で1.8倍増加「ネット依存予備軍」の子どもたち

──インターネット接続やゲームをやめられない子どもが増えているといわれています

厚生労働省の推計によると、ネット依存の疑いがある中高生は2012年度に約52万人だったのに対し、17年度には約93万人でした。5年間でおよそ1.8倍に増加しています。

ネット依存と言っても、情報検索からSNS、ゲーム、動画視聴まで、依存対象はさまざま。ただ、圧倒的にオンラインゲームの依存が多い。久里浜医療センターでは、11年7月から「ネット依存治療研究部門」を開設して治療を行っていますが、患者の9割がオンラインゲームによって生活に支障が出てしまった人たちです。

──そもそも依存とは、どのような状態を指すのですか。

簡単に言うと、ある行動が行き過ぎていることと、それによって明確な問題が生じていること、この2つが一緒になった状況が依存です。例えば、ゲームの過剰使用をやめられないとします。そのせいで食事や睡眠リズムが不規則になって朝起きられなくなったり、家族に暴言を吐いたりと日常生活に問題が出るほか、学業不振や不登校など社会生活に支障が出てくる状態です。長時間ゲームに興じていても、生活上の問題がなければ依存とはいえません。

2016年11月~18年8月、久里浜医療センターのネット依存外来でゲーム依存と診断された患者を対象に、受診前6カ月のうち3カ月以上続いた問題の割合を調査。調査対象者は、9~66歳(平均年齢18.2歳)の男女(90.5%が男性)189名
調査期間と調査対象者は上記グラフと同じ。受診前6カ月のうち1回でも認められた問題の割合を調査

ネット依存が社会問題化してきたのは1990年代後半ごろで、定義がないまま今に至ります。そのため便宜上、ネット依存やスマホ依存、ゲーム依存などいろいろな呼び方がありますが、最近ゲームに関しては初めて定義が与えられました。世界保健機関(WHO)が2019年5月に「ゲーム障害(Gaming Disorder)」を疾病として認定したのです。「国際疾病分類(第11回改訂版)」(ICD-11)に採択され、22年1月からこの診断名が使用されます。よって、SNSなどゲーム以外に依存している場合、医学的には「その他の嗜癖行動による障害」となります。

WHOではゲーム障害を次のように定義しています。

1:ゲームをする時間や頻度をコントロールできない
2:ほかの生活上の関心事や日常の活動よりゲームを選ぶほど、ゲームを優先する
3:問題が起きているのにゲームを続ける、またはより多くゲームをする
4:個人、家族、社会、教育、職業やほかの重要な機能分野において著しい障害を引き起こしている
この4項目の状態が12カ月以上続く場合にゲーム障害と診断。
ただし、4症状が存在し、重症である場合には、それより早期の診断が可能。

当センターが、19年にスクリーニングテストによって、ゲーム障害の疑いのある若者(10~29歳)の割合を調査したところ、男性が7.6%、女性が2.5%、平均5.1%という結果を得ました。とくに年齢が低い男性で多くなっています。

コロナ禍でこの調査は継続して実施できていませんが、当センターの通院患者に対して20年2月と同年5月・6月の生活習慣やネット使用について比較調査したところ、ネット接続、スマホ使用、ゲーム時間が延びるなど症状が悪化していることがわかりました。コロナ禍での一斉休校中にインターネットやゲームに夢中になり、学校に行けなくなったという中高生の新規受診もあります。

また、治療は依存対象との接触を減らしてリアルの活動に置き換えることを支援するのが基本ですが、オンライン授業が増えたことでそれが難しくなり、われわれも患者のご家族も治療に困難を感じています。明らかに一斉休校や外出自粛の影響はあると思います。

子どもが依存に陥るリスク要因とは?

──ゲーム依存に陥りやすい子どもに何か傾向はありますか。

当センターの患者は、圧倒的に男性が多い。とくに12〜18歳くらいの思春期の男子は、シューティングゲームのような依存性の高い対戦型のオンラインゲームにはまりやすいです。女子は育成・音楽・パズル系など依存性の低いゲームを好むため依存にはなりにくい。SNSの過剰使用には陥りやすいですが、それが原因での来院はあまりありません。

自尊心の低さや学業不振、友人関係の乏しさなどもリスク要因となります。対人関係が苦手で、現実社会の中で自分の居場所がない、得意なものを見つけられないといった子どもたちが、ゲームのようなバーチャルの世界に逃げ込んでいるということだと思います。

また、発達障害が関係するケースもあります。発達の特性から行動をコントロールできないことがあり、とくにADHD(注意欠如・多動性障害)はゲーム依存を合併する割合が高いです。

ゲーム開始年齢が低い子どももハイリスク。また、お父さんがゲーム好きで子どもがゲームにアクセスしやすいなど、ゲームが推奨される環境もリスク要因です。

当センターの患者はほとんどが中高生ですが、まれに小学生もいます。ゲームを始めてから症状がひどくなるまでの期間が短く、生活悪化の度合いもかなり重い。親がゲームを注意したら暴れて警察沙汰になったという子もいます。ゲーム障害は年齢が上がると本人が「このままではまずい」と自覚して治療を頑張れますが、低年齢の子どもは問題を認識できないので治療が非常に難しくなります。

また、親が子どもの面倒をあまり見ない、夫婦仲が悪い、両親の子育てについての考えが異なるなどの家庭環境もリスクが高い傾向にあります。母子家庭や父子家庭もハイリスクですが、働くことに時間を取られて子育てに手が回らない、思春期の子どもの行動を親が1人でコントロールするのが難しいという親御さんの苦しい状況があるのだと感じます。

保護者が心得ておきたい予防の基本

──ゲーム依存から子どもたちを守るために、保護者にできることは何でしょうか。

まずは予防です。依存が進行するほどコントロールが困難になっていくからです。なるべく情報端末は親のものを貸し出す形にして、アプリやソフトのダウンロードや課金については親が管理。本人との話し合いのうえで、ペアレンタルコントロールを設定するのも有効です。そして使用時間などルールを決め、守らない場合のペナルティーを決めておきます。使用場所は親の目の届く範囲で、しっかり見守りましょう。

ただ、すでに依存の兆候が現れている場合もあります。ゲームへの執着が弱いうちであれば、親の言葉にも耳を傾けられますから、じっくり話し合ってください。強制的に情報端末を取り上げる、Wi-Fiの接続を切るなどの行動に出ると、本人が大暴れするなどして親子関係が悪化します。大切なのは会話。問題を指摘して改善策を本人と一緒に考えるプロセスが必要です。

家族の手に負えないときは、外部に助けを求めていいと思います。われわれのようにネット・ゲーム依存の治療を行う医療機関は20年9月現在で全国に89カ所あり、地域の保健所や精神保健福祉センターにも相談できます。家族会とつながり救われる方も多くいます。

また、消費生活センターでもオンラインゲームの課金に関する相談が増加傾向にあり、現在消費者庁によって、ゲーム依存に関する相談が寄せられた際に医療機関や自治体の窓口につなぐなどのマニュアル作成が検討されています。

国はICT活用の推進をするなら「手当て」もすべき

──GIGAスクール構想によって1人1台の情報端末が配布されましたが、この状況をどうご覧になっていますか。

最も依存に陥りやすい条件は、いつでもどこでも依存対象にアクセスできる環境があること、そして早い年齢からその対象に触れること。GIGAスクール構想はまさにその状況をつくることになるわけです。国が子どもたちにICT活用を推進するのなら、依存に限らずいじめや個人情報流出などのトラブルも含めて、負の問題に目を向けた教育やカウンセリング体制の整備などの手当ても併せて行うべき。今はそのバランスが悪いのではないでしょうか。

学校から配布された情報端末の使用状況やルールに心配があれば、保護者からも学校や教育委員会に声を上げてほしいと思います。

国内外ともにネット依存に関する調査研究は進んでおらず、現状ではゲームの使用に関するガイドラインもほとんどありません。科学的エビデンスに基づいて使い方を示したものがあれば、保護者も先生も子どもたちをネット依存から守りやすくなりますよね。WHOや国が近い将来、ガイドラインを示してくれることが期待されます。

マニュアルがない以上、先生も保護者の皆さんもネット・ゲーム依存に関する情報にアンテナを張って知識を持ち、依存による心身への影響を子どもたちにも説明するなど、上手な情報端末の活用に努めていただきたいと思います。

樋口進(ひぐち・すすむ)
独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター院長。ゲーム障害、ギャンブル障害などの行動嗜癖、アルコール関連問題の予防・治療・研究などを専門とする。2011年に国内初のネット依存治療専門外来を設立。WHO専門家諮問委員、行動嗜癖に関するWHO会議およびフォーラム座長、厚生労働省アルコール健康障害対策関係者会議会長、同省依存検討会座長(13年)、内閣官房ギャンブル等依存症対策推進関係者会議会長、日本アルコール関連問題学会理事長などを務める
(写真:樋口氏提供)

(文:田中弘美、注記のない写真はiStock)