会社員を続け「米ビルボード1位」叶えた男の信念 トリル・ダイナスティ「原動力は地元活性化」

✎ 1〜 ✎ 8 ✎ 9 ✎ 10 ✎ 最新
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

また、僕は米国の最先端の音をいち早く取り入れて作曲していたこともあり、作曲を始めてから国内で注目されることが増えていったのですが、その中で、日本は邪念が多いと思うようになりました。汚い言葉を投げかけられるといら立ってしまい、そんな負の感情も、引きずってしまう時間も無駄に感じたのです。言葉と言霊をシャットダウンしたほうがいい、英語ならまったく理解できないので自由に活動できるのではと思いました。そういった流れも、米国への直接のアプローチにつながりましたね。

――それで、ICT(情報通信技術)を活用されたわけですね。

昔と違ってSNS(交流サイト)やGoogle翻訳がある今、英語のできない僕でも海外で勝負ができると思いました。昨今、SNSを介して人を死に追い込んでしまうなど間違った使い方をする日本人は多いですが、僕は海外進出のために使ったのです。ICTが大きなきっかけとなったのは間違いありません。

ただし、あくまで手段であり、成功の本質は熱量です。僕は、「見えないもの」は「見えているもの」に勝つと思っているのですが、その「見えないものの力」を誰よりも持っていたのだと思います。

でも、僕がやったことは、行動だけ見れば誰でもできること。SNSもGoogle翻訳も、老若男女問わず誰でも使えます。誰もができるのにやろうとしないことに、僕は熱を注ぎ込んだだけ。チャンスが転がっているのに本気を出さない日本人が多すぎます。できないと思い込み自分で勝手に壁をつくっている人は多いですが、暴力や痛みを負わない限りそこに壁なんてありません。

「二足のわらじ」から次のステップへ

――会社員の業務と並行しての音楽活動は、大変だったのではないでしょうか。

寝なければ時間は確保できるので、平日も仕事から帰宅して朝5時くらいまで曲を作っていました。会社は大学を中退してからお世話になってきた40人ほどの町工場なのですが、職場の人も仕事も大好きで辞める選択肢はなかったです。何より二足のわらじを履いていても世界で成功できるという過程を、ヒップホップ仲間に見せたいという思いがありました。

これからもこの生活を続けるつもりでしたが、実は7月末に会社を退職しました。「お前の信念はクールだが、会社員を続けていると日本人は『ヒップホップじゃ飯が食えない』と思うのではないか。二足のわらじでも世界を取れるというのはもう証明したのだから、次のステップに行くべきだ」と、米国のマネジャーに諭され、音楽一本で活動していく決断をしたのです。

でも、退職日は号泣でしたよ。こんな僕にきちんと仕事を与えてくれて、責任感を養ってくれた会社です。最後も「いつでも戻ってきていい」なんて言ってくれて、本当に感謝しています。

プラークにはトリル・ダイナスティ氏の名前が刻まれている。ここから次のステージへ

――ご自身の学校生活を振り返り、教育について何か思うところはありますか。

どれだけテクノロジーが進み教育レベルが上がろうと、世界で活躍できるかどうかは魂の問題。海外では熱量がない人間はどんどん排除されます。自分の中の燃えている部分や絶対成功するという思いが重要で、教育は関係ない。知識やロジックは後から学べばついてきます。ちなみに僕は、会社を辞めて時間がつくれるようになったのでピアノのレッスンに通い始めました。自分のためにならないと思ったらやめますが、まだ判断できる段階ではないので続けます。学ぶ者が、学びに対してどう臨むかが大事なのではないでしょうか。

ただ、今となっては学校で音楽との接点があったらよかったなと思います。音楽で成功したいと思ったときに、ドレミもわからなかったから。僕が通っていた中学校や高校は文化系と体育系で分断されていて、僕も「野球以外はダサイ」という勝手なマインドになっていましたが、今ではそれをすごく後悔しています。

次ページはこちら
関連記事
トピックボードAD
キャリア・教育の人気記事