デジタル・シティズンシップ教育広がる納得理由 「情報モラル教育」でGIGA端末活用は進まない

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これまで年に1〜2回、児童生徒を集めてゲスト講師の話を聞かせて終わるような情報モラル教育を行ってきた学校は多いですが、それと置き換えればいいというものではありません。あらゆる教科で日常的に行うべきであり、22年度から高等学校で新設される『公共』の主権者教育につなげていく必要もあるでしょう」

さらに、幼い頃から学ばせることが重要だという。現在、残念ながら文科省作成の教材はないが、坂本氏は、推奨教材として米国のNPOコモン・センス・エデュケーション財団による「デジタル・シティズンシップ教材」を挙げる。幼稚園から高校生まで系統的に学ぶことができ、現在、米国では6割以上の学校がこの教材を使用しているという。

坂本氏と共にデジタル・シティズンシップ教育の普及に尽力する国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授の豊福晋平氏が、同財団のクリエーティブ・コモンズ・ライセンスに基づき、この教材に日本語字幕を付けた動画(一部吹き替え版あり)をYouTubeで公開している。

ネットいじめやヘイトスピーチにどう対応すべきか、オンラインニュースとどう付き合うかなど、子ども自身に考えさせる内容は、「教員にとって参考になるはず」と、坂本氏は言う。実際、再生回数が増加しており、活用を始めている教員もいるそうだ。

豊福氏が公開している、NPOコモン・センス・エデュケーション財団の字幕付き教材。画像は小学校3年生向けの動画「責任のリング

例えば小学校3年生向けの動画「責任のリング」では3つの責任を学ぶ。ペットボトルを道端に捨てるという行動が周囲や環境に影響を及ぼすのと同じように、ネットでの振る舞いが自分自身の生活や、家族・友人など周囲の人たち、そして世界中の人々に影響を与える。それゆえ行動を起こす前に、「自分自身」「周囲の人々」「世界」という3つに対して責任があることを思い出し、どう行動すべきか考えることを促す内容になっている。

「この3つの責任の考え方は、まさにSDGs(※1)です。デジタル・シティズンシップ教育は、ポジティブかつESD(※2)との親和性が高いこともあり、『持続可能な社会の創り手』の育成を目指す日本でも受け入れられ始めたのでしょう」と、坂本氏は話す。

※1 持続可能な開発目標
※2 Education for Sustainable Development(持続可能な開発のための教育)

欧米では成果も出始めているという。例えば、米国ではネットいじめに関して、「Cyberbullying Research Center」という機関が2020年に9〜12歳の子ども1034人に対してアンケート調査を行った。

「それによると、デジタル・シティズンシップを学んだことで『ネットいじめを見かけたときに、いじめを止めようとする行動を取った』と答えた子どもは、全体の3分の2にも及んだそうです。自分自身がネットいじめを受けたときは相手をブロックする(60%)、親や大人に相談する(51%)など、半数以上が対処法を持っていることもわかりました」

今のままではGIGAスクール構想も民主主義も崩壊

デジタル・シティズンシップの考え方を広めたのは、1998年より情報教育基準(NETS)を作っている米国の国際教育テクノロジー学会(ISTE)だとされる。携帯電話の利用制限が有効ではないことやネットいじめを背景に、2007年版NETSにデジタル・シティズンシップが盛り込まれ、それを機に米国の教育政策にも反映されるようになったという。

2019年には欧州評議会が「デジタル・シティズンシップ教育ハンドブック」を作って研修を開始。同年、OECD(経済開発協力機構)も報告書「21世紀の子どもたちの教育――デジタル時代の情動的ウェルビーイングをめぐって」の中でデジタル・シティズンシップの重要性を強調した。

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