40年ぶりの「精神疾患教育」高校からでは遅い訳 実は精神疾患の発症ピークは「10代半ば以前」

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シルバーリボンの会のほかのメンバーも、こう話す。

「私の息子は小学校3年生で『突然人の声が落ちたり顔が変わったりして怖い』と言い始め、当時所属していたスポーツチームで選手に抜擢された際に辞退してしまいました。私もコーチも疑問に思い、夫は積極性に欠けると叱りましたが、本人は怖くて仕方なかったのだと思います。私たちの無知が息子を傷つけてしまいました」

中学で明らかな症状が出たため病院に通い始めたが、薬は処方されるものの病名を告知されるまで6年以上かかり、不安な日々を過ごしたという。

「私自身も偏見があって受け止めるまでに時間がかかりました。ようやく人に話せるようになっても周囲からは理解が得られず、医師からも『人に話さないほうがいい』と言われてしまって。わが家に合う家族会に巡り合うまで、10年以上もの間、暗闇の中をさまようような時間を過ごしました」

偏見の中、当事者と家族は孤立し、孤独や不安を抱えながら生きている。森野氏もさまざまな場面で苦しんできたが、「とくに子どもが生活の大半を過ごす学校が、病気を理解したうえでの対応ができていないことが問題だと思っています」と話す。

精神疾患は早期治療・早期発見が大切だが、学校側に受け入れ体制が整っていないため医療機関になかなかつながることができないケースは多く、不登校になったり、転校を余儀なくされたりする子どももいるという。教育センターやスクールカウンセラーに1年半ほど相談し続けたもののらちが明かず、保健師に相談してやっと受診できた例もある。

また、森野氏は教員の知識や理解の不足による悪影響についても危惧する。

「先生が統合失調症を怖い病気であるかのように子どもたちに伝えたことで、大きな不安を抱えることになった保護者もいます。先生が誤った認識に基づく発言をしてクラスの子どもたちが偏見を持つようになった場合、精神疾患の親を持つ子どもはどう感じるでしょうか。

例えば今、クラスに2~3人のヤングケアラーがいるといわれますが、世話をしている家族が精神疾患であることも少なくありません。彼らが困ったことがあっても、助けてと言えなくなってしまいます」

また、昨今子どもの自殺が増えているが、「精神疾患になると脳の制御ができなくなり自殺につながる場合があります。精神疾患への理解が進むことは自殺防止にもつながります」と強調する。

こうしたさまざまな現状から、要望書には「子ども・保護者・教員が、統合失調症をはじめとする精神疾患について正しく学べる機会を、小学校から保障してください」とつづった。要望書提出後の4月下旬、森野氏は文科省からメールを通じ、教員研修について次の回答を得た。

「令和3年度においては健康教育に関する指導者を養成する中央研修において、小中高の校種を問わず受講者が精神疾患の指導に関する講義を受ける時間を設けることとしている」

メール内には「学習指導要領の改訂はじめ着実に進めているところで、向いている方向は同じ」と考えていることや、「今後の授業やそれを支える教員研修も、更なる改善が進められる領域であると認識している」との言葉もあったという。

文科省も認識しているように、精神疾患教育においてまず重要なのは教員のリテラシーの向上だ。しかし、子どもの精神疾患への対応は、学校に丸投げすれば済む話ではない。併せて、医療など外部の関連機関が学校と連携し、当事者である子どもたちやその家族を支える仕組みも構築していく必要があるだろう。

(注記のない写真はiStock)

制作:東洋経済education × ICT編集チーム

東洋経済education × ICT

小学校・中学校・高校・大学等の学校教育に関するニュースや課題のほか連載などを通じて教育現場の今をわかりやすくお伝えします。

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