湘南学園はなぜ「ESD」と「BYOD」が根付いたのか 前例がない中、挑戦を「正解」に変えるには?

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「生徒がやりたいことを、はなからダメとは言わない文化があります。また、プロジェクトに担当教員はつきますが、指導するのではなく伴走するイメージ。生徒と教員は共に悩み戦う仲間で、それが教員としてよい関わり方だという感覚が共有されています」(山田氏)

教員と生徒のこうした絶妙な距離感が、生徒たちの意欲や社会の一員としての意識を高めるベースになっているようだ。

BYODで生徒たちの「授業の受け方」に変化

同学園は、ICTの活用にも力を入れている。例えば、19年度から中学入試で始めた「ESD入試」では、「自身の今までと今後」を語る90秒の動画を作り、それをYouTubeにアップロードするなどして事前提出することを課題の1つとしている。

「試行錯誤したであろう様子や親子間の関わりなども伝わってきて、科目の筆記試験では出会えない子どもたちと出会える。これまでESD入試での募集定員は10名でしたが、21年度は15名に増やしました」(入試広報主任・ICT副主任の小林勇輔氏)

高校では19年からBYODを導入しており、「1人1台」も板についてきた。

「委員会もクラス活動も、ICTが溶け込んでいる。よく教室前などで生徒がミーティングをしていますが、みんな端末を使いデータを共有しながら進めていますね」(山田氏)

各自の端末を使いながらミーティングを行う生徒たち

生徒の「授業の受け方」も大きく変わった。それぞれ自分に合った形で端末を活用しているという。

「BYOD導入後初の試験前、自習時間にほぼ全員が端末を使っている光景を見たときは衝撃でした。みんな便利に思っているのだなと感じました」と、山田氏。自習で教室移動するとき、多くの生徒が持参物は端末とノートとペンのみ。各自、自習用の教材や資料を端末の中に入れてあるので身軽なのだ。

文書作成ソフトをノート代わりにして調べた画像や関連リンクを張ったり、プリントを撮影してその画像に書き込んだり。学習のすべてを端末で完結する生徒もいれば、ノートと併用する生徒もいる。使っているアプリも各自バラバラだ。教員があれこれ教えたわけではない。「好みによって自由に使えるのがBYODのよさですよね」と、山田氏は笑う。

充電タップを各教室に設置し、いつでも充電できるようにしている

総合学習の授業も進化した。何か調べるときも、もうパソコン室にわざわざ移動する必要がない。今まで学習のまとめは紙で新聞を作ることが多かったが、ウェブサイトやスライド、動画などが使えるので表現もより豊かになった。まとめた資料はウェブの指定場所に格納しておけば、いつでも誰でも閲覧できるので便利だという。

それぞれの方法で端末を活用して授業を受ける生徒たち

「360度全方向から矢が飛んできた」

しかし、ここに至るまでには、多くの困難があった。ICT導入のきっかけについて、山田氏はこう説明する。

「一斉授業に限界を感じていた若手の間で『ICTをそろそろやらないとダメだよね』という話になり、17年に有志の若手が集まってICT導入委員会を立ち上げました。でも、詳しい教員がいなかったので、Googleに社内見学に行くなどして手探りで学んでいきました」

試行錯誤で準備を進め、晴れて18年にiPadを高校1年生200名全員に導入。しかし残念ながら、まったくうまくいかなかった。「端末を忘れました」「充電が切れて使えません」と言い出す生徒が続出。中には「どこかに置き忘れました」「割れちゃいました」と言う生徒も。

「正直、iPadを子どもたちに配ればうまくいくと思っていたけど、甘かったですね。閲覧制限やアプリの自由なダウンロードを禁止するなど厳しく規制してしまったため、生徒は端末に愛着を持てなかった。自分のスマホのほうが使い勝手がよいため『何でスマホじゃダメなの』などネガティブな意見を言い続けていました」(山田氏)

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