国際貢献の舞台で「本当に使えるスキル」とは?

国連30年、上智大植木教授が語る「認められ方」

1999年、東ティモールを独立に導いた最初の国連東ティモール派遣団(UNAMET)で政務官兼副報道官としてマスコミ対応をしていた上智大学の植木安弘教授

上智大学が、大学院修士課程の「国際協力学専攻」を2021年4月に開設する。国際機関や国際協力の現場でのキャリアを目指す人のための実践的なコースだ。いまだ新型コロナウイルスは収束しないが、地球温暖化などの環境問題や各地の紛争といった安全保障の問題など、地球規模の課題解決に関して、自分のキャリアや経験を生かしたいと思うなら、この専攻は大いに役立つだろう。社会人はもちろんのこと、国際舞台を目指す学生も重要な学びを得られるはずだ。

国際機関では日本人が求められている

「国際機関で必要とされているスキルや経験というのは、実は民間企業で得られるものが多くあります。技術系、行政系、人事系、法律系、物流系……と、多くのスキルにニーズがあるので、これらをお持ちの方は世界の平和構築や国際開発に生かすキャリアアップを考えてみてもいいのではないでしょうか」

そう話すのは、上智大学の植木安弘教授。国連の広報局や事務総長報道官室などの業務に約30年従事し、ナミビア独立後の選挙監視、東ティモール紛争後の政務官兼副報道官、そしてイラクでの国連による大量破壊兵器査察団の報道官という大役も務めてきた。

上智大学
国際協力人材育成センター所長
大学院グローバル・スタディーズ研究科 教授
植木安弘
1976年上智大学外国語学部ロシア語学科卒(国際関係論副専攻)。米コロンビア大学で修士号、博士号を取得。82年より国連事務局広報局、92~94年日本政府国連代表部(政務班)、94~99年国連事務総長報道官室、99年~広報局に勤務。2014年4月より上智大学にて教鞭を執る

ただ、植木教授のような例はあるにせよ、現在、国際機関で働く日本人はほかの先進諸国に比べて少ない。外務省の統計によると、全世界の国連職員やスタッフ約3万6000人のうち、日本人は約900人程度。国連には多様性を守るために職員の地理的配分があるが、日本は配分の半分程度しか満たしていない状況にある。

「これまで多くの国を支援し、政治的にも中立である日本から来たということは、国際貢献をする中でもとても好意的に迎えられますし、必要とされています。さらに多くの国際機関で必要とされている専門性は、社会経験を積んだ人々に備わっているスキルや経験ですから、それらを国際貢献に生かしてほしいですね」(植木教授)

国を超えた社会課題解決への橋渡しをする役割は、国連だけには限らない。海洋に強い知見があるなら海洋プラスチックごみ対策や海洋保全を担う国際海事機関(IMO)、金融のキャリアを生かしたいなら途上国の開発支援をする世界銀行やアジア開発銀行(ADB)など、多岐にわたる分野に活躍の場はあるのだ。

授業は、平日の夜と土曜

しかし、いざ国際機関を目指すとなると、前述のような社会経験に加えて修士号が条件になることがほとんどだ。社会人になってから国際機関に興味が湧いても、仕事を辞め収入を絶ってまで大学院に通うのは現実的ではない。

そこで、上智大学が大学院で2021年度からスタートさせるのが、「グローバル・スタディーズ研究科 国際協力学専攻」だ。国際機関や国際協力の現場でのキャリアを目指したい社会人に対し、即戦力となるような実践的なカリキュラムを提供するのが特長だ。国際社会の平和と繁栄を維持発展させるために不可欠な多国間主義と国際協調を学び、そうした国境を越えるさまざまな問題の解決に寄与できる人材を育成していくための修士課程となる。

注目すべきは、この修士課程は社会人が学ぶことを前提としたコース設定がされていること。仕事をしながらでも学べるように、授業は平日の夜と土曜日を中心に組まれ、期間限定の集中講義なども配置している。上智大学がある四ツ谷駅は東京駅から9分、新宿駅から6分と都心に勤めるビジネスパーソンはアクセスしやすい。

さらに2年間が基本の修士課程だが、仕事とのバランスを考えて3年間かけて履修したい人には、通常の学費で3年間在籍できる長期履修制度を用意。逆に短期集中で学びたい人には、最短1年間で修了可能な早期修了制度もある。一部オンライン授業もあり、社会人の学びをサポートするプログラム設計になっている。

指導に当たるのは植木教授をはじめ、国際機関や国際協力の実務経験を豊富に持ち、高い専門性を有する教員たちばかり。授業は、そうした学識豊かで丁寧な研究指導をする専任教授と、現場経験が豊富な各分野の非常勤講師たちというバランスの取れたチームによって行われる。

共通科目を中心に置きながら、それぞれの専門科目も学べるようになっており、その先には国際協力のキャリアを見据える

この修士課程の教育や研究の柱は2つ。その1つ「平和協力・平和構築研究」では、国際連合の紛争予防行動、紛争調停、平和維持活動と平和構築活動の理解と分析を含め、その中でどのような国際協力体制が敷かれているのか、また、その体制がどのような成果を生み、どのような問題を抱えているのかを考察していく。もう1つの「持続可能な開発研究/社会・教育開発研究」では、貧困や飢餓の撲滅、産業や技術革新、エネルギー問題、環境保全、教育の質の向上など、現状分析をベースに、これらの課題解決に国際社会や国際機関がどう関わっているのかなど、具体例に基づきながら解決策を探っていく。

授業科目は、理論や学術的リサーチ方法、国際社会の現状や背景などを学ぶ基礎科目に加え、実践的な実習プログラムも多彩に用意されている。NYやジュネーブ、バンコクなどの国連機関や国際機関が集う現地での実地研修や、タイ北部でのフィールドワークプログラムなど、実際に国際機関の仕事を体験しながら学べる絶好の機会といえる。さらには、それぞれの研究や目的に応じて、より具体的な研究を行っていく応用科目、応用実務科目へと展開していく。また、国際協力学専攻以外の専攻が開講するほかの授業科目を受講して単位認定できる仕組みもある。上智大学全体の多様な「叡智」を活用でき、受講生の個別最適化にも優れたコースとなっている。

国際貢献で求められるスキル

仕事で培った専門性と、この修士課程で国際貢献に必要な学びが身に付いたとして、それで実際に現場で通用するのか。長年、国連の現場にいた植木教授が実感する「国際社会で活躍するためのスキル」は次のようなものだ。

「国連には多様な国の人が集まっている一方で、欧米的な文化もありました。例えば、国際的な組織では与えられた仕事をこなすだけではなく、自分の成果をアピールし、つくった実績をきちんと評価してもらい、個人のレピュテーションを上げる必要もあります。ポジションは与えられるものではなく、自分で取っていくものだからです」

その際に必要なのは、「生きた英語」だという。英語力は大前提として必要だが、受験英語ではなく「使える英語」が必須だという。自分をアピールするためには、英語が完璧かどうかは二の次で、自分の考えを明確に発言することが不可欠だからだ。

冒頭の写真と同時期の植木教授。国連東ティモール派遣団として、現地の人たちに独立かインドネシアへの併合かを決める住民投票について説明をしている

「日本では和を重んじますが、欧米では意見を表明することが重要です。その一方で、多様な人々の中で最終的に意見をまとめていくために貢献していく調整力も求められます。多様な人がいれば、意見が衝突することも日々あります。その中でいろいろな人と働くので、議論はしながらも敵をつくらずに仕事を円滑に遂行していかなくてはいけない。人脈はいつ自分を助けてくれるかわからないので、ネットワークも大事にしたほうがいいですね」

こう書くと相当難易度が高いように映るが、実はこれはどの企業でも程度の差こそあれ同じことがいえるだろう。そして、植木教授が「どんな仕事でも今の仕事や経験から国際社会に貢献できることがある」と語るように、国際貢献は多くの人につながる話なのだ。

新たなグローバル社会へと向かうためのキャリアアップの道のりは、東京の真ん中、四ツ谷から始まる。

>>>上智大学の「グローバル・スタディーズ研究科 国際協力学専攻」はこちらから

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