上智「データサイエンス大学院」の現在地と未来像 データ人材は広告とモノづくりをどう変えるか
文理融合でビジネストランスレーターの育成へ
――応用データサイエンス学位プログラム(以下、プログラム)が今年4月に開設し、約半年が経ちました。どのような手応えを感じていますか。
大原 初年度入学者の約6割が社会人で、所属する組織は企業や官公庁など幅広く、中には会社を経営している方もいます。多様なバックグラウンドを持つ人が集まっているので、データサイエンスの学びの場のみならず、その学びを更に発展させる情報交換の場としても刺激的な環境になっていると思います。
また近年、ビジネスサイドとデータサイエンティストの考えをつなぐトランスレーター(翻訳者)の役割を担える人材が求められているのを、兼職している三菱総研DCSのビジネスシーンでも感じています。そのような要請に応えるべく、データサイエンスを多角的に考えられる、文理融合のカリキュラム構成にするなど工夫を凝らしましたが、まさにニーズに応えられているという手ごたえを感じています。
安藤 私は博報堂DYホールディングスでデータテクノロジー領域のビジネスや研究開発を担うメンバーとともに、オムニバス講義を担当しています。内容は広告やメディアビジネス、マーケティングにおけるデータサイエンス活用について学べる構成にしています。
大原教授がおっしゃるとおり、受講生の年代も経験もバラエティーに富んでいますが、共通しているのは学びに対する熱心な姿勢です。積極的に発言する学生も多いですし、授業後に寄せられる的確な質問や深い理解に基づく感想からも、前向きに取り組まれる方が多い印象です。
山田 私は製造業における設計からアフターサービスまでの一連のプロセスで、どのようなデータがどう利活用されているのかなどを学ぶ講義を担当しています。製造業の概論に近い内容をメインにしているため、データサイエンティストを目指す方にとっては味気ないかもしれないと危惧していたのですが、蓋をあけてみると食いつくように学ぼうとする方ばかりです。
講義を受講する社会人学生の職種はIT、情報システム、マーケティングなど様々ではありますが、とくに「何を目的にデータを使うのか」という部分に関心を持ち、熱心に学んでいる方が多い印象です。
広告と製造業におけるデータは、価値を生み出す源泉に
――さまざまなバックグラウンドを持った方が集まり、データサイエンスを学ぶ環境の中で、講義を通じてどのようなことを伝えたいとお考えでしょうか。
安藤 ひとつは「なぜ広告やマーケティングにデータサイエンスが必要なのか?」という根本的な部分です。いずれもデータサイエンスの領域からは縁遠いと思われがちですが、データを丁寧に分析することで、時に想像を超える価値を生み出すことができます。
広告やマーケティングでは、施策やクリエイティブに対する消費者の反応を読み解きながら、ストーリーを構築していきます。データサイエンスを単なる技術として扱うのではなく、新しい世界をひらくためにこそ、データ活用の意義があることを伝えたいと思っています。
山田 私は「日本のものづくりへの危機感」です。現在においても日本の製造業は世界トップレベルに位置すると思いますが、現状のままではプレゼンスを失う可能性もあります。
欧米や中国では、製品から使用頻度や用途のデータがフィードバックされる仕組みを採用するなど、データを活用した製品設計がスタンダードになっており、それがものづくりの質を高めることに繋がっています。使い手のレスポンスをものづくりに反映するためにデータを活用するという思考が、日本の製造業には必要ということを伝えていきたいですね。
――では、データサイエンスの知見をもとにビジネスの現場で活躍するためには、どのようなマインドや素養が必要でしょうか。
大原 ビジネス領域でデータサイエンスを扱う場合、人やモノなど、さまざまな要素がデータを構成する対象となります。だからこそ未知なことでも興味を持って、知識のアップデートを楽しめる好奇心を持ってほしいと思います。また、得たデータをさまざまな人・部門と連携を取って成果につなげるためのコミュニケーションスキルも、組織においてデータの学びを活かすために必要な要素になります。
安藤 数字やデータを扱うことを突き詰めた先に何があるのかを意識するマインドを持ってほしいですね。広告やマーケティングのクリエイターの中には、生活者のインサイトに関するデータを地道に分析し、クリエイティブを追求している人も多くいます。数字やデータの先に、突き抜けたクリエイティブを生み出せる可能性があることを、ぜひ知ってほしいです。
山田 外資系ソフトウェアベンダーという観点から見ると、やはり英語能力ですね。国内のマーケットだけを意識する分には特に問題は無いと思いますが、グローバルに視野を広げた場合、競合他社の動きやそれに関するデータというものはほぼ英語の記述でしか存在しません。翻訳を読むという手段もありますが、それは既に誰かが内容を理解して翻訳しているという時点で一歩遅れを取っています。英語を理解し、主体的に世界で何が起こっているかを把握する力は、データ活用の最前線に立つ人材にとって必須のものと考えます。
データから創造へ。即戦力人材の育成を目指す
――来期の開催に向けて、ご自身の担当分野を踏まえて講義の価値をどのようにアップデートしたいとお考えでしょうか。
安藤 AIが処理するデータと創造性を結びつける重要な仕事は、データの構造やその背後にある原則への理解が必要であり、人間が行う必要があります。今後、AIが発達することで、データサイエンス分野において人間が果たす役割はむしろ重要性を増すはずです。
データサイエンスを武器にして活躍するには、データ活用の目的を意識した上で、広告やマーケティングとデータの関連を高度に読み解き、アウトプットすることが必要となります。私たちの講義では、価値のあるアウトプットを出せる人材の育成に注力したいと考えています。
山田 ものづくりの世界は大きく変わりつつあります。製造の現場では、組み立てから3Dプリンターによる積層への変化が進み、製品を組み上げるのに必要な部品数は驚くほど減少しました。
同時に設計の分野でもAIが進化し、人間が思いつかない形状を自動的に生成することが実用段階に達しています。このような進化は、AIやデータサイエンスの影響力が大きいです。今ものづくりは、非常にエキサイティングな分野に姿を変えているので、その興奮と楽しさを伝えたいと考えています。
大原 学生たちには、日々直面する具体的な課題に対し、講義を通して解決策やそのヒントを見つけることを期待しています。また私たちも、社会の要請に応えられる人材を育成すべく、幅広いニーズに対応できるカリキュラムを追加して、広範で深い知識を提供できるプログラムへの拡充計画を推進していきます。
また、各分野の専門家の方々から知見をいただきながら、ビジネスシーンにおけるトレンドやニーズを学べるのもプログラムの魅力の一つ。来期も、さまざまな角度からデータサイエンスを学び、実践できるカリキュラムを構築し、ビジネスにおける課題をデータドリブンで解決できる人材の育成を推進していきたいと思っています。
応用データサイエンス学位プログラム(修士課程)
2024年4月入学 2月入試情報
・出願書類提出期限:2024年1月10日(水)消印有効
・試験日:2024年2月17日(土)
・合格発表日:2024年2月28日(水)