あおぞら銀行が「上智大学内」に移転、その意義 物理的な距離の近さが生む産学連携の新たな形
上智大学のキャンパスの一角に、銀行の本店が進出
―― あおぞら銀行は2017年、新本店を上智大学四谷キャンパスの複合ビル「ソフィアタワー」に開業しました。この地を選んだ理由はどこにあったのでしょうか。
谷川 啓社長
早稲田大学法学部卒業後、あおぞら銀行(旧日本債券信用銀行)入行。1985年より、個人営業、広島支店、事業再生、金融法人営業、経営企画、事業法人営業等の業務に携わる。2012年執行役員、17年専務執行役員、18年副社長などを経て、20年6月より現職
谷川 移転の検討を始めたのはその数年前の2015年ごろです。1957年に日本不動産銀行(後の日本債券信用銀行)として開業して以来、東京・九段下を離れるのは初めてでした。
移転先の検討に当たっては、将来の大規模災害の際にもお客様との取引をしっかりと維持することができることに加えて、新しいワークスタイルに取り組むことができる場所にしたいと考えていました。上智大学ソフィアタワーは、制震構造や非常用電源等の最新の安全性を備える優れた建物です。本店移転を契機として、ビジネスプロセスやワークスタイルの変革に本格的に取り組みました。従来のやり方を大きく変えようということで、行員の中には不安に思う人もいましたが、みんなが協力して取り組んだ結果が、現在のリモートワーク、ペーパーレス等の、新しい働き方につながっています。
―― 「ソフィアタワー」は17年1月に完成しましたが、大学の施設とオフィスフロアが共存しているのが大きな特徴です。あおぞら銀行の入居はどのようなインパクトがありましたか。
曄道 研究・教育施設のほかオフィス階も設置したのは、さまざまな企業様に入居いただくことで、大学との連携を取り、新しい学びの機会をつくりたいと考えたためです。今では講義や共同研究にご協力いただくなど、学生だけでなく私たち教員も大きな刺激をもらっています。金融市場や経済社会などの現場で活躍しているプロフェッショナルの皆さんから、リアルタイムの生の情報を提供いただき、学ぶことができるようになったのは大きな変化です。
谷川 当行では以前から多くの上智大学の卒業生に活躍していただいています。本店移転で新たなご縁をいただいたことを感謝しています。上智大学の学生の皆さんは、学びの意識が高く、非常に優秀でいつも感心しています。これまで海外からの留学生を含む学生の皆さん向けのインターンシップ等に取り組んでいますが、これからもお役に立てるようないろいろな取り組みを考えていきます。
あおぞら銀行の行員が上智で講義
―― 2017年から「バンキング基礎演習」として上智大学へ講師を派遣して授業をされています。どのような授業をされているのでしょうか。また授業で学生に感じてもらいたいのはどのようなことでしょうか。
谷川 各回のテーマごとに、あおぞらグループで実際に業務を担当しているメンバーによる講義と学生の皆さんとのグループディスカッションで構成されています。金融に関する基礎知識を習得していただくとともに最新情報の共有を図っています。これからグローバルに活躍される学生の皆さんの金融リテラシー向上の支援を通じて、あおぞらグループのメンバーも学生の皆さんとの交流を通じて新たな気づきを得られる、貴重なコミュニケーションの場となっています。
曄道 佳明学長
慶應義塾大学理工学部機械工学科卒、同大学院理工学研究科博士後期課程満期退学。博士(工学)。2004年上智大学理工学部教授。学生センター長、入学センター長、学務担当副学長、グローバル化推進担当理事補佐などを経て、17年4月より現職
曄道 学生も、教科書で金融のことは学べても、実際にバンキングが社会の中でどのように位置づけられ、どのように動いているかを体験として知る機会はなかなかありません。その点で、金融の実務家としての経験や思いを披露してもらうことは非常にありがたいです。
上智大学では学生一人ひとりに、社会を正しい方向に導くリーダーになってほしいと考えています。学生が伸びるときに必要なのは、学ぶ意識の切り替えです。先ほど申し上げた実務家の皆さんの経験や思いを直接聞く場はとても重要で、それらに触れることで、学生たちが自分自身の学ぶスタンスを確認できるとともに、「学び方そのもの」を学ぶことができ、社会に入ってからの伸びしろを大きくできると考えています。しかもその実務家の皆さんは同じビルで仕事をしているわけですから、感じ方も変わってきますよね。
―― 上智大学とあおぞら銀行の共同研究も始まっていますね。中でも「フィナンシャル・ジェロントロジー(金融老年学)」は非常に興味深い領域です。
谷川 フィナンシャル・ジェロントロジーは、長寿がもたらす経済的な課題や高齢者の資産運用などを研究対象とする新しい学術領域です。高齢化が進む日本における金融サービスのあり方を検討する際に欠かすことのできない分野となっています。当行は以前から多くのシニア世代のお客様にもご利用いただいていますが、「お客様本位の業務運営」の一環として、ご高齢になられたお客様に対するサービス向上の観点から、老化がもたらす認知機能や判断力への影響について専門の調査・研究に基づいた改善を行っていく必要があると考えています。
―― 共同研究では、シニア層の消費動向などを数値化した「あおぞら上智シニア消費指数」も開発しました。こちらもユニークです。
谷川 「あおぞら・上智シニア消費指数」は、日本のシニア層の消費動向・意欲を指数化したもので、当行と上智大学が共同で調査・指数算出を行っています。どなたにもご活用いただけるよう当行のホームページで毎月公表を行っておりますが、消費動向の変遷なども把握することができます。
新しい産学連携の形
―― 産学連携というと、大学が保有している特許技術などを企業との協業により製品化するといった事例が多いように思います。その点で、上智大学とあおぞら銀行の取り組みは先駆的なモデルといえるのではないでしょうか。
曄道 「フィナンシャル・ジェロントロジー研究」は、上智大学総合人間科学部心理学科の松田修教授が、「あおぞら・上智シニア消費指数」は経済学部を中心とした複数の教員たちが主導して、あおぞら銀行との共同研究に携わりました。理系と比べ、これまで文系の教員はなかなか企業との共同研究に手が届いていなかった状況にあったものが、あおぞら銀行との相互作用で進めることができているのが大学としても意義深いと感じています。

―― あおぞら銀行の行員の方が講師として講義を行う一方で、行員の方が学ぶ「プロフェッショナル・スタディーズ」にもスタート時から参加されています。
谷川 当行グループは日本国内のみならず、米国、欧州、アジアなどでグローバルなビジネスを展開し、金融の専門家としてお客様にユニークなサービスを提供しています。グループ全体の従業員数は2000人ほどと、銀行としてはコンパクトな組織であり、行員一人ひとりの個性、知性を存分に発揮することが求められています。本プログラムは業務スキルの研修に加えて、人間的な幅を広げる機会を提供いただくものであり、業務から離れたリベラルアーツを学ぶことで新しい気づきの場となることを期待しています。
曄道 学びとは個性化にほかならないと考えています。中でも、人間性を豊かにしてくれる「個性としての教養」を考える、これが私たちの「プロフェッショナル・スタディーズ」の着眼点でもあります。あおぞら銀行の行員の方をはじめ、さまざまな業種の方が集まって、多様性の中で議論を深めることで新しい発想が生まれると思います。
―― 産学連携のパートナーとして、今後どのような点で関係を深めていきたいと考えていますか。
谷川 「バンキング基礎演習」や「共同研究」のほかにも、新たな面白い取り組みができないかと考えています。例えば、学生の皆さんのサークル活動のサポートとして、ボランティアサークルと一緒に使い捨てコンタクトケース回収を行う取り組み等を行っていますが、もっと多様で幅広い取り組みを進めていきたいと思います。
産学連携とは異なりますが、これこそ同じビル内にいるからこそできることだと考えています。今後もアカデミックな分野だけでなく、学生さんと当行行員の交流を通じた現場の連携も深めていきたいですね。
曄道 現場の交流は私も大事にしたいと思っています。社会がドラスティックに変化している中では、教育そのものも変化する必要があります。それは学内だけで知恵を絞っていては容易ではありません。私は、大学はできるだけオープンにし、ありとあらゆる場で学生に学びの機会を提供すべきだと考えています。講座や共同研究から得られるものも非常に大きいですが、課外活動の最中にあおぞら銀行の行員の方々と学生が何気ない会話をする中で「社会の変化とはこういうことか」という気づきもあると思うんです。そういう意味で、あおぞら銀行のように、新しい取り組みに共感していただける企業の力が不可欠です。ぜひ、今後ともご協力をお願いします。



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