環境問題、国際紛争、人道危機、経済格差……、これら地球規模の課題に向き合い、「国際機関で働き、世界に良いインパクトを与えたい。もっと自分の力を試したい」と考えても、そのハードルはとてつもなく高そうで、そもそもどうすれば「国際公務員」になれるのかわかりにくい。そんな人にとって、昨年上智大学でスタートした講座はとても魅力的に映るだろう。なぜなら「国際公務員」になるための、実際的な「一歩」を後押ししてくれるからだ。
社会人でも間に合う
国際連合(UN)やその専門機関など、さまざまな国際機関で働く「国際公務員」という仕事をご存じだろうか。一つの国の利益のためではなく、そのテーマに関してどの国の政府からも拘束されずにグローバルな視点に立って任務を行う人たちだ。地球規模での問題解決に取り組む姿にあこがれを抱く学生も多いが、職員への門は狭いものとされてきた。わかりにくい採用フローに加え、語学力や専門知識、面接や論文の書き方など求められるスキルも高い。
そんな難易度の高いチャレンジを、ノウハウや知見の共有という形でバックアップするのが、2017年に始まった上智大学の「国際公務員養成講座」だ。大きくは「国際公務員養成セミナー」「国際公務員養成英語コース」「国連集中研修」と3つのコースがあるが、そのいずれでも国際公務員として長年働き、豊富な経験を持つ教授陣から実践的な内容を学べるとして、注目を集めている。
同講座を取りまとめる総合グローバル学部の植木安弘教授も、国連事務局で長く働き、広報官や広報センター部長を務めてきた人物だ。この講座の立ち上げからかかわり、現在も中心となって講義をしている。
1976年上智大学外国語学部ロシア語科卒。国際関係論副専攻。米コロンビア大学で修士号、博士号を取得。82年より国連事務局広報局、92~94年日本政府国連代表部(政務班)、94~99年国連事務総長報道官室、99年~広報局に勤務
「開設以来、学生から会社員、医師、政府機関の職員まで幅広い層の方々が受講していますが、皆さんとても意識が高く、お互いの刺激にもなっているようです。授業では、実際の国際機関への応募を想定した履歴書の書き方や面接のポイントというものから、モデルケースにおけるグループワークや議論まで、幅広く、そして実践的なプログラムを組んでいます」(植木教授)
「国際公務員養成セミナー」は、平日夕方+土曜日の全12回、6週間で受講できる。「英語コース」も全12回だが、4週間で終えるプログラムで、こちらは国連政務局や広報局での勤務経験を持つネイティブの講師が担当。プレゼンやライティングスキルに加え、国連公式文書の書式などを学び、国際公務員に求められる英語力を徹底的に鍛える講座だ。どちらも、現役の学生だけでなく、社会人でも通うことができ、多様なバックグラウンドを持つクラスメイトと机を並べるという魅力的な講座になっている。
「国連集中研修」は、夏期にニューヨークの国連本部を訪れ、国際公務員制度や採用面接の心得、履歴書の書き方などを、1週間かけて学ぶ実務型研修となっている。ここでは現役職員が分析&アドバイスをしてくれるために、言葉一つひとつがリアルだ。国際公務員のイメージ像もより具体化できるだろう。
では、国際機関では、実際にどんな人材が求められているのだろうか?
「まず、英語が作業言語ですので、読み、書き、話し、コミュニケートする力が必須です。ただ、完璧である必要はなく、仕事で使えることが重要です。一方で、国際機関は専門家の集まりとも言えるので、自分の専門性を高める必要があります。できるだけ若いうちに大学院の修士号を取得し、専門性を高めるといいでしょう」(植木教授)
こう書くとハードルは相当高いように思われるが、植木教授の話によれば、入ってからの努力で何とかなる部分も大きいという。
「専門性も、仕事をしながら覚えていけば大丈夫です。すべてのところで、『OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)』が基本と考えてもらえばいいでしょう。ただ、国際機関は多くの国から異なる文化を持つ人が集まっているので、理解の精神と寛容さ、チームワークが重視されますが、それと同時に、自分の見解を持ち、適度に自己主張をする能力がないと評価されません」
日本人は、和を尊ぶ精神があるゆえに自分の意見を主張するのが苦手なことがあるが、これが国際機関の面接や論文の自己アピールにマイナスに働いてしまうこともあるという。そうした対策に、講座では、英語での論理的な意見の伝え方、面接での自己アピールの話し方、国際的な議論の場での発表の仕方なども、実際にモデルケースを扱いながら取り組んでいく。

大量破壊兵器査察団の元報道官
国際機関では、各国の力関係が影響しないように出身地域別の職員の人数配分が決められているが、まだまだ日本人の国際公務員は他国に比べ少ないのが現状だ。一方で、日本でも国際公務員を志す人は年々増えており、植木教授はこの講座で少しでもその機会を増やしたいと話す。
「社会人としてすでにそれぞれの職業で活躍している人なら、その経験を国際機関で生かすことができます。また、学生は、これからの職業選択のうえで積むべき経験を考える機会にもなります。日本にもすばらしい人材はたくさんいるので、そうした意欲ある人たちを発掘し、実際に国際公務員となって活躍するためのサポートをしていきたいですね」
植木教授自身、これまでアパルトヘイト撤廃直後の南アフリカでの初の民主選挙の監視を行ったり、イラクで国連大量破壊兵器査察団のバグダッド報道官を務めたりと、歴史の大きな転換点となったさまざまな出来事にリアルタイムでかかわってきた。もちろん容易な仕事ではないが、その醍醐味を植木教授はこう語る。
「国際機関で働くことは、世界で起きている問題に直接貢献できるということです。その中でも自分でクリエーティブにどんどん仕事に取り組んでいけますし、それが世界を変えていく一端になります。まさに世界の歴史とともに生きていることを実感できます」
実際に「国際公務員養成英語コース」を受講した男性(30代・金融)は、「学生の頃から国際機関で働くことに興味がありました」と受講のきっかけを話す。内容が実践的だったことと、仕事をしながら通えることに惹かれたという。
「20人弱のクラスメイトは、学生から政府機関の職員、会社員などさまざまなバックグラウンドでしたが、皆、成長意欲も高く積極的な人ばかりで刺激的でした。内容も、国連の決議文書や広報ビデオなどを題材にした実践的なもので、先生からのフィードバックが詳細かつとても丁寧だったのがとてもありがたかったです。授業や課題のレベルは高くて難しかったんですけどね(笑)。それに、担当のアン=マリー・アイバネス先生がユーモアのある方だったおかげで、授業がアクティブに双方向で進み、グループワークでもクラスメイトと自然と打ち解けて、互いの得意分野を生かしたプレゼンもできました」と講座への満足度の高さを感じさせる。

「夢」を「目標」にするために
受講後は、日英の表現力が増し、説得力のある文章を作れるようになっただけでなく、クラスメイトを基点として交流の幅も広がっているという。さらに「これまでは国連食糧農業機関(FAO)で働きたいと考えていたが、講座で『自分の専門分野に近い国際機関やポストに応募することが重要』と学んだため、今後は募集のタイミングが合えば金融に関係する国際機関に挑戦したい」と、かつて「夢」だったものが「具体的な目標」へと変わったようだ。
「上智」とは、真の叡智のこと。真の叡智は世界に通ずるという思いで開学以来、国際性あふれる人材養成を重視してきた。グローバルに社会貢献できる人材を育てる同大学だからこそ実現しているこの講座には、植木教授以外にも国際機関や国際協力に携わっている現職の講師陣ばかりで、ここでしか学べない知識と経験が詰まっている。まさにこの講座は、叡智と実践が結集された「国際機関への道」なのである。
世界を変える仕事がしてみたい、国際機関で働いてみたい――。この講座は、そんな気持ちを持つ人に対して「道しるべ」の役割を果たすのかもしれない。
10月開講講座 参加申込み受付中
国連事務総長が上智大学へ


