日本の食事情「SDGsの意識」を無視できない理由 上智大×アサヒ対談「食料システム変革」への道

食品バリューチェーンにおいて高まる「環境と人権」への意識
――まず、日本の食品バリューチェーンにおける脱炭素やSDGsに関する取り組みの浸透度合いや、現状を考察いただけますでしょうか。
鈴木 パーム油やカカオ、コーヒーに代表されるように、日本で販売される食品は各国の農作物を使用していることもあり、世界的な影響を意識してSDGsや脱炭素に向け、積極的にチャレンジしている企業は増えてきている印象です。しかしEU(欧州連合)のように「生産の各工程で、環境への影響に配慮していることを証明できなければ販売しない」というような小売店からの強い要請は、国内ではまだ見られていないのが現状です。
薮野 食品バリューチェーンにおいては脱炭素や人権、地域社会への影響などの課題が複雑に絡み合っています。当社でもバリューチェーン上流に当たる農産物原料の生産状況をリサーチし、一部取り組みを強化しています。また製造工程や容器包装からの温室効果ガス削減にもグループ全体で尽力しています。
地球環境学研究科 教授
鈴木 政史氏
鈴木 事業者自らの温室効果ガスの排出(Scope1 ※1・Scope2 ※2)を減らす取り組みは進んでいると思いますが、事業活動に関連する他社の排出(Scope3 ※3)に関しても、意識は高まっていると感じています。10年ほど前は、他社のコントロールが利かないため自社の責任ではないというスタンスでしたが、その認識は変わりつつあり、Scope3を取り組むべき重要課題に挙げる企業が増えているように思います。
薮野 おっしゃるとおりだと思います。当社でも先行してScope1・2への取り組みを進めてきて、今まさにScope3は最も排出量の多いカテゴリー1(原料・容器包装など)を中心に、サプライヤー各社と協業して、取り組みをさらに拡大していきます。
※1 燃料使用や焼却設備での燃焼などによって、自社が直接排出した温室効果ガスの量
※2 自社で他社から供給された電気、熱、蒸気を使用したことによる間接排出の温室効果ガスの量
※3 Scope 1・2以外で、原材料調達から製造、販売、消費、廃棄の一連のプロセスにおいて排出される温室効果ガスの量
ESG投資の台頭で変化する「企業の責任」
――食品バリューチェーンに対する消費者の意識向上に当たり、大学や企業はどのような取り組みが必要になるとお考えでしょうか。
鈴木 学生と接していると、今の若年層は環境問題や人権問題に対する関心が高く、とくに食品を取り巻く問題に敏感なことに気づかされます。ただ、おのおの関心を持つポイントは異なるので、どのような属性の人が、どんな経済的・社会的・環境的な課題に興味があるのかを絞って分析することによって、その研究結果を企業に提供できるのではないかと思っています。
サステナビリティ シニアマネジャー
薮野 純子氏
薮野 企業ができることは大きく2つあると思います。1つは、食品バリューチェーンの取り組みを対外的に発信することです。投資家やサプライヤーなどをはじめとする、幅広いステークホルダーに目を通していただきたいサステナビリティレポートや統合報告書などは、事業を通じて社会にどういう価値をもたらしたいかを訴求しなければいけないと考えています。もう1つは、商品にメッセージを乗せて情報発信することです。当社の場合、ドリンクのパッケージに製造段階でグリーン電力を一部使用していることを示す、飾り文字の「G」を印字するなど工夫をしています。
――企業が食品バリューチェーン全体で持続可能性を追求することで、投資の呼び込みや企業価値の向上にどうつながるとお考えでしょうか。
鈴木 国民年金と厚生年金の積立金を管理・運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が、2015年にESGを考慮した投資の推進を発表したことで、企業におけるESGへの意識は飛躍的に高まりました。ESG投資における評価は、脱炭素や人権問題などマイナス面をゼロにする取り組みだけではなく、最近はサステナブルな取り組みを起点にイノベーションを生み出そうとする取り組みも、企業において積極的に見られるようになったと感じます。

薮野 当社が重視するのはいかに人権、環境等、サステナビリティに配慮した商品を提供するかという点です。卸売りから加工と流通、栽培までの強制労働などに焦点を当てたリスクの机上分析・調査を実施し、人権への取り組みを強化することは企業の責任だと考えています。また、当社ではPETボトルのラベルレス商品の展開拡大によるプラスチック使用量の削減や、ユーザビリティの向上によるイノベーションを進めています。このような活動が投資や企業価値の向上につながるのではないでしょうか。
産学連携で生まれる「サステナビリティの新たな価値」
――事業におけるサステナビリティの推進に当たり、最初の一歩に苦慮する企業は多いです。まず、どのようなことに着手するべきだと思われますか。
薮野 当社の場合は、何を始めるかではなく「なぜ始めるか」を重視し、事業が社会にどのようなインパクトを与えるかを分析することにチャレンジし始めました。ビジネスによってマテリアリティが異なるとは思いますが、変化によって生まれる社会的・環境的インパクトを把握する取り組みの推進は、サステナビリティを経営の根幹に置く企業においては、共通する重要なポイントだと思います。
また、2019年からTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に基づく分析を継続しています。最近はISSB(国際サステナビリティ基準審議会)が公表した、サステナビリティ関連情報の開示に関するフレームワークにのっとった戦略やガバナンス体制の検討を進めることで、投資家の情報ニーズを満たすアプローチを継続しています。

――食品バリューチェーンの取り組みにおいて、企業と大学の連携はどのような価値を創出できるとお考えでしょうか。
鈴木 1つは人材を起点にした連携です。企業の方に講義のゲストスピーカーを担当していただくことで、学生は現場のリアルを学ぶことができます。そこから学びの幅を広げることで、企業や国際機関などで、食品バリューチェーンの知識を基に事業開発できる人材を輩出できるのではないかと思います。また企業にとっては、学生の柔軟な発想に触れることで、事業のイノベーションにつながる情報が得られるメリットがあると考えます。
薮野 当社は、ステークホルダーとの共創による企業価値向上を目指しており、研究機関や大学、同業他社との取り組みなどの実績があります。今回のような大学のシンポジウムでは、専門家であるパネリストから得られる知見など、収穫が多いです。「持続可能な食システムへ:いかに転換させるか?」では、食品という身近な問題について議論するため、消費者である一般の方にもぜひ聞いていただきたいと思っています。



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