国際会計基準の学びで見える「企業の成績表」 あなたも無関係じゃない「IFRSがもたらす変化」

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大西氏と西澤氏
グローバリゼーションやITの発展によるビジネス環境の変化は、企業の国際会計基準(IFRS)へのシフトを加速させている。上智大学の社会人対象講座「プロフェッショナル・スタディーズ」では、昨年好評を博した国際会計基準をテーマにした講座が今秋も開講予定だ。一見、経理・財務といった会計に関わるポジションを対象としているように見えるが、講座をコーディネートする副学長の西澤茂氏と、講師の大西秀亜氏(アバージェンスCEO)は「会計になじみがない人にこそ受講してもらいたい」と話す。二人の対談を通じて、ビジネスパーソンがIFRSを学ぶ重要性を考える。

知識の陳腐化への対処法は「学び続けること」

――上智大学の「プロフェッショナル・スタディーズ」について教えてください。

西澤 このプログラムは、ビジネスパーソンを対象にグローバルな舞台で活躍するうえで求められる教養や専門知識をアップデートすることを狙いとしています。日本は大学を卒業して就職したのちにこれらをアップデートする機会があまりにも少ないです。他国の優秀な人材は、競争の激しいグローバル社会で生き抜くために、新しい知識を吸収し、物事の本質を見抜く力を持つことの重要性を深く理解しています。

プロフェッショナル・スタディーズは、社会人が学び続けるための「場」を産学共創の枠組みで提供するものです。国際通用性のある専門知識と教養を併せ持つ優秀な人材を日本から一人でも多く輩出したいという想いを込めて、講座を展開しています。

大西氏
アバージェンス CEO
大西 秀亜

大西 時代の変化が激しい今、知識が陳腐化するスピードも速いです。つねに知識・情報・ネットワークをアップデートしていく姿勢を持ち続けないと、一個人としての競争力を維持できません。

時代を問わず優秀なビジネスパーソンが兼ね備えているのは、物事を俯瞰できる能力。広い視野を持つためには、異業種で働く人たちとの交流や他の業界の知識、さらにビジネス以外でもアートや文学などアンテナを幅広く張ることで、インプットの質と量を高める努力が大切です。その意味で、プロフェッショナル・スタディーズは絶好の機会ではないでしょうか。

――西澤教授が担当されている「国際会計~IFRSの会計情報とグローバル企業の財務分析~」は、どのような講義なのでしょうか?

西澤 グローバルスタンダードとして定着している国際会計基準(IFRS)をテーマに、グローバル企業の将来性を分析する講義です。会計情報は、全世界で使われているビジネスランゲージ、すなわち共通言語です。以前は国ごとに会計基準が異なっていましたが、IFRSという世界共通の会計基準が登場したことで、安心して取引や投資をできる環境が整いました。

日本企業のIFRSへの移行も進んでおり、IFRSを切り口にグローバル企業の現状を学ぶ講義を作ったのも、こうした潮流があるからです。専門的な会計の知識を習得するというよりは、現代のビジネスパーソンに必要不可欠な教養としてIFRSを学ぶことを目的としています。

大西 私が授業を通じて伝えたいのは、IFRSという制度の細かい部分ではなく、「IFRSが導入されることで、企業活動にどんな影響があるのか?」という大きな枠組みの部分です。また、今後要求される非財務情報の開示を含む決算書に企業活動がどう反映されるのか。その流れや仕組みを理解することは、グローバル化がものすごいスピードで進んでいる現代において、ビジネスで成果を出すために大きな意義があると考えています。

会計基準から見える「人類のポジティブな面」

――2021年には、国内大手企業が米国会計基準からIFRSに替えたことを表明しました。なぜ、今IFRSの導入が広まっているのでしょうか。

大西 グローバルで活動している機関投資家たちは、面倒なことが嫌いだからです(笑)。投資家はつねに優良な投資機会を求めているわけですが、バラバラの基準で作成した決算書は確認するだけでも手間がかかるので避けたがる。そんな事情もあって、国際金融市場を動き回るお金はワガママで移り気な存在とも言えます。IFRSの導入によって企業間の国際比較が容易になり、投資家にとって企業価値への理解を深めることが可能になることは、大きなメリットと言えるでしょう。

西澤氏
上智大学 副学長
西澤 茂

西澤 IFRSを策定する財団は、22年内に非財務情報の開示基準も取りまとめる予定です。財務情報と非財務情報は、企業の営利活動と持続可能性を見極めるために必要な両輪です。

IFRSで非財務情報の公開基準が整えば、環境や社会、企業統治など業績データにとどまらない情報の開示が経営者には求められます。気候変動やダイバーシティなど、世界が直面しているグローバルイシューにどのように対応していくのか、企業の姿勢や行動力は機関投資家からも注視されています。

――会計と聞くと、細かい計算や難解な数字を読み解かなければいけないイメージですが、グローバルでの活躍を目指すうえで、IFRSが誕生した背景や概要を理解しておくと強そうですね。

大西 結局、仕事で努力した結果は最終的に決算書で評価されます。その決算書が作成されるルールを理解しておくことは、自社の事業構造の理解に結び付きます。それは、どんな職種の人でも仕事をするうえで有利に働くはずです。

西澤 おっしゃるとおりですね。決算書は「企業の成績表」です。自分たちの活動がどう成績表に反映されるのかを理解することは、すごく大事だと思います。また、次世代のビジネスの潮流をつかむことにも役立ちます。

例えばインターネットに取って代わり、次世代の覇権を握るテクノロジーがすでに誕生しているかもしれません。その変遷を理解する際に頼りになるのは会計情報です。自分の勘で行動するのではなくて、客観的なデータで判断できることは大きな武器になるはずです。

二人がラフに話す様子

大西 会計の前提にある資本主義は、荒々しい船出を経て、時々の社会課題に対応してさまざまな形に変化しながら、現在に至っています。格差問題や気候問題など、世界が抱える課題すべてを解決するには時間がかかりますが、会計を含めたビジネス面においては、人々の叡智を結集することで前へと進み続けています。

最近は、会計基準に気候変動やダイバーシティなどの非財務情報を盛り込む機運が高まる中で、よりよい世界にしていこうという人類のポジティブな面を感じ取れます。会計の面白さはそういうところにもあると思っています。

多様なメンバーとのネットワーク構築も魅力

――国際会計の講座は昨年に続き2回目の開講になります。前回はどのような受講生が集まりましたか?また、反響についても教えてください。

西澤 金融、製造、メディアなど幅広い業種から、グローバルのビジネスに関わりたいという受講生が集まりました。会計の知識だけではなく、経済の流れを理解できたという声や、異業種の受講生とつながりができてよかったという声を聞いています。受講生は学ぶ意欲や好奇心の強い、非常に優秀なビジネスパーソンばかりです。すばらしい仲間づくりの機会になるはずです。

大西 人と向き合い、対話を通じて直接入手する一次情報というものは、本当に貴重だと思います。私が運営に関わっている「CLUB RIGHT HAND」というオンラインサロンでのメンバーとの交流でも本当にそれを実感していて、多種多様な業界の方々との意見交換から新たなアイデアが生まれることも多い。オンラインで簡単につながることができるようになった、今の時代ならではの交流の在り方ではないでしょうか。

プロフェッショナル・スタディーズでも、専門家の話をたくさん聞いて、多種多様なメンバーと対話を重ね、そこから情報をインプットすることで俯瞰力を養い、これからの仕事に活かしてほしいです。

西澤 ご参加いただいた受講生の皆さんには、横のつながりだけではなく、ぜひわれわれ講師ともネットワークを構築してほしいと思います。「プロフェッショナル・スタディーズ」が受講生の方々にとって、飛躍のきっかけになればうれしいですね。

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連載「叡智が世界をつなぐ」