AI時代に価値を生む「データと対話」の思考術 20代から60代が集う学びの場で生まれたもの

学問と実務の連動で、ビジネスに生きる学びを提供
即戦力となるデータサイエンティストや、データを柔軟にビジネスに活用できる人材を育成すべく開設された「応用データサイエンス学位プログラム」。その第1期生が、2年間の学びを経て、今春修了を迎えた。
第1期生の顔ぶれは、実に多彩だ。約6割を占める社会人受講生は商社・金融・製造・ITなど多様な業界から集まった。年齢も経歴も異なる彼らが、学部から進学した学生たちと机を並べる。現職の課題解決からキャリアチェンジまで、多様な目的意識が交差する教室では、つねに活発な議論が生まれていたという。
経営戦略の専門家であり、現在はデータサイエンス人材の育成にも注力している担当教員の小林裕亨准教授は、その環境こそが価値ある学びの土壌になったと語る。
応用データサイエンス学位プログラム
准教授
小林 裕亨氏
「同じテーマでも年齢や出身、文化やその人のバックグラウンドによって捉え方はまったく異なります。多様な視点がぶつかり合う議論の中では、私たち教員にも多くの発見がありました。とくに、社会人経験のない学生から投げかけられる率直な疑問は、実務に慣れた社会人学生が忘れかけていた、基本的な視点や問題意識を呼び覚ましてくれました」
プログラム開設からの2年間は、まさに社会の変化と並走する日々だった。とくに大きな転換点となったのが、世界を席巻する生成AIの登場だ。AIが誰もが使えるツールへと移り変わる時代のターニングポイントを目の当たりにし、カリキュラムもそれに合わせる形で柔軟に修正を行ったと、小林氏は話す。
「単なる技術知識の修得ではなく、重要なのは『データを使って何に挑戦できるか』という本質的な問いを立てる視点です。応用データサイエンスに唯一の正解はありません。だからこそ、多様な視点からデータを解釈し、ビジネスの意思決定につなげる実践的な力が不可欠になります。生成AIの登場をはじめ激動の2年間でしたが、その変化に適応した学びの環境を構築できたのではないかと自負しています」
経験と直感に科学を融合し、意思決定力を高める
現在、住友商事から出向し、5G基地局のシェアリングサービスを提供するベンチャー企業・Sharing Designの常務執行役員を務めている上舞(かみまい)祐司氏は、応用データサイエンス学位プログラムの第1期生だ。受講の背景をこう振り返る。
「商社では数十億から数千億規模の投資案件が動きますが、意思決定の際にこれまでの経験やノウハウに加え、データのエッセンスを掛け合わせれば、もっと成功率や納得感が高まるのではないかという考えを以前から持っていました」
世の中では「データビジネスの時代」と叫ばれているものの、実際に活用できている企業はごくわずか。だからこそ、理論だけでなく実務に生かせる知見を身に付け、そのうえで自分の意見を発信したいと考えるようになった。
Sharing Design 常務執行役員
(住友商事より出向中)
上舞 祐司氏
「自らがデータサイエンティストになるのではなく、データの専門家と協働し、その力を最大限に引き出すことで新しいビジネスを創出したいと考えていました。そのためには、データの可能性を正しく理解し、適切に活用するための視点や判断力、それを実行に移すスキルが不可欠です。このプログラムなら、そうした力を理論と実践の両面から身に付けられると感じました」(上舞氏)
データサイエンスの学びはゼロからのスタートだったが、統計学や機械学習、深層学習といった基礎理論に加え、通信・スポーツ・製造など分野別の実践演習にも取り組み、理解を深めていった。
「ビジネスへの応用を念頭に、主に実践演習型の授業を履修しました。現場経験豊富な先生方からは、データどおりに進まない状況での戦略構築の手法を学びました。中でも印象深かったのが、小林先生の『戦略思考と意思決定』です。VUCA時代における最適な意思決定プロセスを実践的に修得し、出向先での戦略策定や事業推進に生かすことができました」(上舞氏)
小林氏は、「戦略思考と意思決定」の授業について、次のように説明する。
「データサイエンスを学ぶ目的の1つは、情報を活用してより的確な意思決定を行うことにあります。短期的な判断では、過去データを基に予測するAIの強みが生きますが、5年先の新規事業構想といった長期戦略では、未来像から逆算するバックキャスティングが不可欠です。
『戦略思考と意思決定』の授業では、こうした異なる時間軸の意思決定に対応できるよう、データを適切に分解・活用する思考力を鍛え、データサイエンスを戦略策定や事業推進へと結び付ける実践力を養います」
教室の外にも広がる、同窓ネットワークと実践の場
また上舞氏にとって、魅力は授業や教授陣だけではなかった。知的好奇心が旺盛で、相手の意見を否定せず受け止めながら議論を深める姿勢を持つ同窓生たちの存在も、このプログラムならではの大きな価値であった。世代や立場を超えて意見を交わせる環境の中で、自らの経験や常識が相対化され、異なる立場からの考えに触れるたびに視野が広がっていったという。

「実務経験豊富な社会人から、学部を卒業して間もない学生まで、本当に多様な人たちと議論ができたことは、大きな財産になりました。年齢や職歴に関係なく、意見を受け入れてくれる人が多く、グループワークでも建設的な時間を持つことができました。そうした場では、絶対的な正解がないテーマにどうアプローチするかを深く話し合うことで、自分の考え方が大きく変わりました」(上舞氏)
同窓生のネットワークは学びの枠を超えてビジネスにも広がっている。上舞氏は修了後、同期の起業家が開発したAIエージェントを、大手企業と連携して製品化するプロジェクトに自らのビジネスネットワークを紹介し、展示会出展や自治体への導入支援にも協力した。
こうした取り組みは、在学中に築いた信頼関係があったからこそ実現できたものだ。小林氏は、こうした実践的なつながりこそが、まさに応用データサイエンス学位プログラムの真価だと語る。
「理論そのものはeラーニングや書籍でも学べますが、この大学院の価値はそこにとどまりません。知的好奇心が高い人たちが集まって、背景や常識の異なる立場から意見を出し合うことで、自分の考えを検証し、多面的に物事を捉える力が身に付きます。これは単なる知識修得以上の価値だと思います」(小林氏)

プログラムの期間に限った学びや関係にとどまらないよう、大学院側でも四半期ごとに学びをアップデートする場や、定期的な懇親会の場を用意するなど、継続的な関係構築を支えている。
「今後も、アカデミックとビジネス両面の知見を掛け合わせ、多様なバックグラウンドを持つ人たちが自由に議論できる“実験場”であり続けたいと思います。最新技術や新しい応用事例を取り入れつつ、受講生が自分なりの活用方法を見つけられるよう、多様で柔軟なプログラムを提供していきます」(小林氏)
応用データサイエンス学位プログラムの「応用」という言葉には、ここで得た知識を生かし、組織や社会が持つ個々の課題に合わせて、最適な解決方法を導いてほしいという願いが込められていると、小林氏は話す。プログラムでの学びを体現し、新たな挑戦をスタートさせた第1期生たちは、データの力をどんな環境で、どう生かしていくのだろうか。修了生が起こすアクションが世界を驚かせる日も、そう遠くはないのかもしれない。
応用データサイエンス学位プログラム(修士課程)
2026年4月入学 2月入試情報 ※社会人入試のみ
・出願書類提出期限:2026年1月8日(木)消印有効
・試験日:2026年2月15日(日)
・合格発表日:2026年2月25日(水)



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