JR西「ブラジル鉄道事業」出資5年で何を得たか リオの都市鉄道に参画、日本との違いに驚き

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ブラジルの鉄道は日本の鉄道とはさまざまな面で違いがある。たとえば、ブラジルでは電車が5分程度遅れても利用者はさほど文句を言わないらしい。そのため、「定時性を確保するための日本の仕組みがブラジルでは必要とされていないことを、行った後に初めて気づいた」(平野室長)。技術的なアドバイスを行う際にも、「日本でやっているから」と説明しても納得してもらえず、技術的な根拠をきちんと説明する必要があるという。

セントラル駅に停車する車両は中国製(写真:JR西日本)

運行面での取り組みとしては、安全運転対策として、日本で日常的に行われている指差喚呼や点呼時の相互確認、眠気防止対策などを提案した。また、ダイヤ通りに電車が来ない理由を調べたら、運転士は始発と終着のダイヤは把握しているものの、中間駅の時刻を把握していないことが判明し、運転士の力量によって早く行きすぎたり遅くなったりということが起きていた。そこで運転士に中間駅の時刻を示す時刻表を携帯させることを提案した。節電できる運転技術の提案も行った。

経営参画から5年。あらゆる部署を見て回って気づいたことは、検査の仕組みやルールすらない分野があるということだった。ある機器が故障しても、それを誰が修理し、その後誰が検査するかが決まっていないケースもあるという。

JR西にも大きなメリットが

今年6月、JR西日本の提案を受けて、スーペルヴィアは543項目からなるアクションプランを策定した。JR西日本はコロナ禍で出張できないこともあり、テレビ会議で支援しているという。

JR西日本が出資を決めた2015年はリオデジャネイロ五輪の前年であった。ブラジルへの投資に関しては五輪後の経済成長を見越し、JR西日本は明るい見通しの乗車人員見通しを立てていたはずだ。実際には、五輪後の経済回復は遅れ、さらに現在のコロナ禍でその見通しは大きく狂っているに違いない。さらにスーペルヴィアに行っているアドバイスはコンサルティング契約という形は取っているものの、「将来的にはお金をもらいたいという気持ちはあるが、今は経営状態も厳しいので、無償で契約を結んでいる」。その意味では、収益的にはJR西日本の持ち出しといってよい。

とはいえ、JR西日本からさまざまな提案を受けているスーペルヴィアにメリットがあるのは当然としても、JR西日本もスーペルヴィアとの議論を通じて社内の鉄道ノウハウに磨きをかけるメリットがありそうだ。「考え方が違う海外の鉄道マンと議論をすることで、自分の会社の課題にも通じるような見方ができるようになってきた」と平野室長は話す。

人材育成という点では、ひょっとしたら当初見込んでいた以上のメリットをJR西日本は享受しているかもしれない。スーペルヴィアで得たノウハウがJR西日本の隅々まで行き渡れば、JR西日本の安全運行への取り組みもさらに強固なものになるに違いない。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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