現在、映像撮影のほか、公共業務にも携わる。例えば、老朽化した橋梁(きょうりょう)の点検業務や、その機体の開発。点検ができる操縦者の養成も担っており、その資格認定の発行権限も有しているという。ドローンパイロットとしての強みについて、こう語る。
「強風など厳しい条件下でも操縦ができるスキルがあるだけでなく、昔から分解や改造を繰り返していたこともあって、機体の構造やシステムなど技術的なことまで理解できる点でしょうか。耳がいいので音の違いだけで不具合もわかりますからね」
幼い頃から好きなことに夢中になる中で鍛えられてきたさまざまな力が今、大いに役立っている。

2020年10月には、地元の神奈川県厚木市と災害時協力を含む包括連携協定を結んだ。世界的に災害現場のドローン活用は、人命救助の後で状況調査を行う程度だが、智樹さんは災害現場に駆けつけ、ドローンで被災者を見つけるなどの活用を志している。
「小さい頃からの夢であるドクターヘリのパイロットになって人命救助にも携わりたい。そのためにも、今は会社を大きくすることが目標。僕が現場に立たなくても回る仕組みをつくり、新たなドローン活用を構想する時間を増やそうとしているところです」
こうした夢の根底にあるのは、人への思いだ。「僕はこれまで多くの人に助けてもらってきたので、今後も誰かのためになることをしたい」と語る。そして、こう願う。
「ここ数年で、識字障害のような端(はた)から見てわかりにくい障害もだいぶ認知されました。今後はさらに、障害を持つ本人も周りの人も、お互いの困り事を率直に共有できるようになることが大事だと思います。また、僕の障害は紙とペンしかない中では重いものですが、パソコンやタブレット端末を使ってOKとなると障害の度合いはすごく下がる。ほんの少しの差で大きく変わることがあるんです。どんな課題も前例にこだわらず、どこを変えればうまくいくのかということを柔軟に考えられる社会になっていくといいですね」

1998年神奈川県生まれ。中学2年生の時に識字障害と診断を受ける。中学時代からドローンに夢中になり、2016年ドローンレースの国内大会で優勝。同年ドバイで開かれた世界大会「World Drone Prix 2016 Dubai」に日本代表として出場。17年18歳で父親と合同会社「スカイジョブ」を設立。映像撮影のほか、橋梁点検ドローンの開発や災害時協力など幅広く事業を手がける。著書に『文字の読めないパイロット 識字障害の僕がドローンと出会って飛び立つまで』(イースト・プレス)
(注記のない写真は梅谷秀司撮影)
制作:東洋経済education × ICT編集チーム
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