ホンダが造った新駅「みなみ寄居」は何が特別か 自動車工場と直結、沿線活性化に期待の声も

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ホンダの埼玉製作所は、寄居完成車工場のほか、狭山完成車工場と小川エンジン工場からなる。寄居工場は2013年7月に稼働開始し、年25万台の生産能力がある。製造する車種は「CR-V」「ヴェゼル」「フリード」「インサイト」「Honda e」など。寄居と小川の工場は国道254号沿いにある。

同社は3年前の2017年10月、2021年度をめどに寄居への生産体制の集約を完了する計画を発表した。狭山完成車工場の従業員は寄居を中心に異動することになるという。新駅設置の請願があったのは翌月の11月。マイカー通勤が増えることで工場周辺の道路の渋滞が懸念されていた。

記念式典には東武・ホンダ両社のほか沿線自治体の代表者が出席した(記者撮影)

新駅開業に先立って10月30日に開催した記念式典で、ホンダ埼玉製作所の大江健介所長は「狭山工場から寄居・小川へ生産の集約を進めていく中で、従業員の通勤や部品・完成車の輸送で国道254号線のさらなる混雑が予想されることがわかっていた。なんとか寄居工場隣接地の公共交通機関である東武東上線を利用できないかと申し上げ、協議を重ねた結果新駅の設置につながった」と経緯を説明した。

桜の名所になる?

沿線自治体からの期待も高い。寄居町の花輪利一郎町長は「駅設置の構想があがった当初、この狭小地での建設が可能なのだろうかと憂慮したがまったくの杞憂だった。(ホンダ創業者の)本田宗一郎氏の『発明はすべて苦し紛れの知恵だ。アイデアは苦しんでいる人のみに与えられる特典である』という名言があるが、その通り、知恵と工夫で立派な駅が完成した」と歓迎した。

みなみ寄居駅は谷間の狭い土地に建設された(記者撮影)

そのうえで、駅周辺を桜の名所とすべく、ホンダと地域のボランティア団体で植樹をしているといい「数年後には駅や車窓からピンクに染まる桜を一望できるのではないかと楽しみにしている」と話す。また、隣接する小川町の松本恒夫町長は「地域活性化の推進のために沿線地域をつなぐ東上線の果たす役割はますます重要になってくる」と期待を寄せた。

東武も工場勤務者などの利用促進に向けた検討を進めていくという。現時点で具体策は明らかにしていないが、東上線沿線でのマイカーと電車を組み合わせて通勤する「パークアンドライド」などがアイデアとして考えられそうだ。朝の東上線は下り列車も、越生線沿線の学校への通学客でにぎわう光景がみられる。“ホンダ寄居前”の開業で小川町駅以北の人の流れがどう変わるのか。新駅が本領を発揮するのはこれからだ。

橋村 季真 東洋経済 記者

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はしむら きしん / Kishin Hashimura

三重県生まれ。大阪大学文学部卒。経済紙のデジタル部門の記者として、霞が関や永田町から政治・経済ニュースを速報。2018年8月から現職。現地取材にこだわり、全国の交通事業者の取り組みを紹介することに力を入れている。

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