福祉をビジネスとして収益化させるために
弟の崇弥氏は、放送作家などさまざまな肩書を持つ才人、小山薫堂氏の主宰するオレンジ・アンド・パートナーズでクリエーティブを学び、兄の文登氏は大手ゼネコン出身でマネジメントに長けている。2人は得意分野に応じて役割を分担しながら、さまざまな専門的スキルを持ったメンバーたちと共にヘラルボニーという会社を2018年にスタートさせたのである。
とはいえ、福祉をビジネスとして収益化させることは簡単なことではない。だが、その中で今、ビジネスとして大きく動き出しているのが、「全日本仮囲いアートミュージアム」というプロジェクトだ。これは建設現場を囲う「仮囲い」を、知的障害のあるアーティストたちが描くアート作品で彩るもので、仮囲いを企業の利益につなげる新しい試みだ。

1991年岩手県生まれ。東北学院大学共生社会経済学科卒業後、大手ゼネコンに入社。入社3年目で営業成績1位を獲得した元営業マンで、被災地再建などにも従事。その後、弟と「MUKU」を立ち上げ、2018年株式会社ヘラルボニーを設立。ヘラルボニーではマネジメントを担当
「建設現場の仮囲いそのものを丸ごとアートミュージアムにするもので、東京・渋谷区をはじめ、さまざまな民間企業と組んで行っています。渋谷区では、このプロジェクトが落書きの抑止力にもなる一方で、企業にとってはブランドイメージを高めていくことにつながるメリットがあります」(文登氏)
最近では、障害のあるアーティストたちが描くアート作品をターポリンという生地にプリントし、掲出後に剥がして裁断をし、バッグとして販売したという。
「こちらは完売するほどの人気商品となりました。消費者の方々も、障害のあるアーティストのバッグであるという背景をちゃんと見て買っていて、新たな社会的価値を認めてもらうきっかけにもなりました。それは“月の土地を買う”のとどこか似ていて、バッグを買った人が作品を見に来て『自分はこれを買った』と言えるのが面白いなと思っています。現在も『全日本仮囲いアートミュージアム』は引き合いが多く、これからさらに発展させていきたいと考えています」(崇弥氏)

ほかにも、アート作品が大手電機メーカーのクリエーティブなオフィスづくりの要素の一環として利用されたり、地ビールのラベルなどに採用されたりしたことも、ビジネスが本格化する大きなきっかけとなったという。