「送料無料」でも楽天がアマゾンに勝てない理由 もはや選択肢がなくなりつつある三木谷氏

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これに対してアマゾンは商品のほとんどが直販であり、純粋な小売店なので、消費者が直接的な顧客である。もちろん楽天も消費者が楽天市場で買い物をしてくれないと出店者がいなくなってしまうので間接的には消費者も顧客といえるが、ビジネスの世界では誰からお金を受け取るのかという違いは極めて大きい。

アマゾンの優位は必然

アマゾンは消費者に選んでもらうことがシェア拡大の絶対条件なので、消費者の利便性向上に経営資源のほとんどを投入してきた。

一方、楽天は商品の販売は基本的に出店者に委ねられるため、どんなサービス内容にするのかは出店者次第である。アマゾンは商品を買う前から、それがいつ届くのかほぼ例外なくわかるようになっているが、楽天にそうしたサービスがないのは、自らが小売店ではないという部分に起因している。

商品の配送も全て出店者に任されているので、楽天はウェブサイトの運用に専念していればよく、経営的にはとても身軽である。こうした身軽さが初期には功を奏し、楽天は一気にシェアを拡大できた。

しかしネット通販が当たり前の存在になってくると、サービス水準が重要となるため、場所貸しという事業構造は逆に不利になる。コツコツと自社物流網を構築してきたアマゾンが優位に立ったのは必然といってよいだろう。

三木谷氏はアマゾンに負けている理由について「送料」だと発言しているが、正しい認識とは言えない。ネット通販の利用頻度が高い消費者の多くがアマゾンを支持しているのは、サービスが利用者目線で設計されているからで、送料の問題ではない。仮に送料が経営戦略の重要なカギを握るのなら、出店者ではなく楽天本体が負担すべきであり、この点についても矛盾がある。

同社の苦境は事業構造そのものが原因であり、日本を代表する起業家である三木谷氏がこの事態を把握していないはずはない。それにもかかわらず、送料無料化を強引に推し進めようとしているのは、同社にはもはや選択肢がなくなりつつあるのが現実だからである。三木谷氏に求められているのは、小手先の対応ではなく創業者にしかできない抜本的な戦略転換である。

<本誌2020年2月25日号掲載>

加谷珪一/経済評論家
東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。http://k-kaya.com/
「ニューズウィーク日本版」ウェブ編集部

世界のニュースを独自の切り口で伝える週刊誌『ニューズウィーク日本版』は毎週火曜日発売、そのオフィシャルサイトである「ニューズウィーク日本版サイト」は毎日、国際ニュースとビジネス・カルチャー情報を発信している。CCCメディアハウスが運営。

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