現代人をむしばむ「愛着障害」という死に至る病 体と心を冒す悲劇の正体とは何か?

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自己肯定感を持ちなさい、などと、いい年になった人たちに臆面もなく言う専門家がいる。が、それは、育ち盛りのときに栄養が足りずに大きくなれなかった人に、背を伸ばしなさいと言っているようなものだ。

『死に至る病 あなたを蝕む愛着障害の脅威』(光文社新書)。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします

自己肯定感は、これまでの人生の結果であり、原因ではない。それを高めなさいなどと簡単に言うのは、本当に苦しんだことなどない人が、口先の理屈で言う言葉に思える。

いちばん大切な人にさえ、自分を大切にしてもらえなかった人が、どうやって自分を大切に思えるのか。

むしろ、そんな彼らに言うべきことがあるとしたら、「あなたが自己肯定感を持てないのも、無理はない。それは当然なことで、あなたが悪いのではない。そんな中で、あなたはよく生きてきた。自分を肯定できているほうだ」と、その人のことをありのままに肯定することではないのか。

自己肯定感という言葉自体が、その人を否定するために使われているとしたら、そんな言葉はいらない。

愛着障害がもたらす悲劇の恐ろしさ

自分のことを何よりも大切にしてくれる存在を持てないことほど、悲しいことはない。大人であっても、それは悲しいことだ。だが、幼いときに、子どものときに、そんな思いを味わったら、その思いをぬぐい去ることは容易ではない。

だが、それは、単に気持ちの問題にとどまらない。

では、根本的な要因は何なのか。

それに対する答えが、「愛着障害」なのである。

岡田 尊司 精神科医、作家

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おかだ たかし / Takashi Okada

1960年香川県生まれ。東京大学文学部哲学科中退、京都大学医学部卒、同大学院にて研究に従事するとともに、京都医療少年院、京都府立洛南病院などで現代を生きる人々の心の課題に向かい合う。現在、岡田クリニック院長(枚方市)。日本心理教育センター顧問。著書に『愛着障害』(光文社新書)『発達障害「グレーゾーン」』(SB新書)、監訳書に『親といるとなぜか苦しい』(東洋経済新報社)など多数。小説家・小笠原慧としても活動し、作品に横溝正史賞を受賞した『DZ』などがある。

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