もはや四面楚歌 「折口帝国落日」

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一括譲渡は難航も 人材業も問題が山積

 ただし一括譲渡のハードルは低くない。昨年4月の法改正による単価見直しは業界にダメージを与えた。「介護度が低い利用者は介護予防へと切り替えられ、単価が大幅に下がった。事業者が軽度の利用者を直接獲得できないシステムに変わった。軽度利用者が多い訪問介護事業はたいへん厳しい」と野村証券の繁村京一郎シニアアナリストは解説する。最有力とみられるニチイ学館も介護事業は赤字が続いており、決して磐石ではない。しかも同社も介護報酬の不正請求で業務改善勧告を受けている。「リスクもあり介護事業者が一括譲渡を受けるにはファンドの力を借りないと相当難しい」(繁村氏)。ただ折口会長は「ファンドへの譲渡は100%ない」と明言しており、また厚労省の意向も無視できず、事業譲渡問題は決着まで紆余曲折が予想される。 一連の不祥事は、介護事業だけにとどまらず、GWG全体への影響も小さくはなさそうだ。

 昨年秋に買収した人材サービス最大手、クリスタル(現グッドウィル・プレミア)の上乗せで、今ではGWG全体の売上高の9割、利益のすべてを人材サービス関連が稼ぎ出す。GWプレミアは偽装請負問題で大幅縮小を余儀なくされた傘下の製造請負業、コラボレート(現ハイライン)に代わり、技術者派遣のシーテックが稼ぎ頭だが、「今回の不祥事の発覚後、同社でも新規契約の見合わせが相次いでいる」(GWプレミア幹部)。また「(客先への)配属純増キャンペーン」と称して、コムスン同様の純増数要求の目標設定が社員に課され、現場は疲弊しているという。広告宣伝を大量投入して採用を強化しているが、急拡大を焦るあまりか、「現在は未経験者でも可とされ、技術者としての実務経験がまったくない中高年まで採用している」(同)状態ともされる。

 さらに最大の懸案が横たわる。祖業である日雇い派遣最大手、グッドウィルにおける「データ装備費」の返還問題だ。同社では保険料や安全対策に充てるとして、派遣労働者の給与から1勤務当たり200円を「データ装備費」との名目で天引きしていた。年間徴収額は約15億円に上る。「創業時からの業界慣行であり、廃止するタイミングを逃していた」(折口会長)とされたが、同社の労働組合グッドウィルユニオンの指摘を受け、今年5月に廃止した経緯がある。

 ユニオンの関根秀一郎書記長によれば、過去分の返金について会社側は天引きが任意でなされていなければ返金することを一度は認めた。が、後に撤回。会見で折口会長は「納得いただいていなければ返金する」と言及したが、取材では「納得していない人をどうするか検討している」とまたも後退した。会社側の説明は二転三転しており、解決が長引けば風評リスクにもなりかねない。

 「2015年度・連結売上高1兆円」に向けて拡大路線をひた走るGWGだが、最近においても折口会長の資産管理会社との公私混同とも言える不動産売買があるなど、いまだ個人商店の色彩が濃い。虚偽申請・不正受給問題では捜査機関も関心を寄せているとされる。「折口帝国」とも呼べる創業以来しみついた独特の企業体質を払拭しなければ、グループはオーナーもろとも地盤沈下しかねない。

(書き手:風間直樹、高橋篤史 撮影:梅谷秀司)

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