もはや四面楚歌 「折口帝国落日」
同業他社に比べ悪質 現場からも声上がらず
だが、同社の行ったことは本当に微罪なのか。昨年末、いち早く一斉監査を行い、4月の段階で「指定取消処分相当」と発表した東京都福祉保険局の堅多敦子・指導第一課長は憤る。「退職した職員の名前を使ったり、本人の了解もなく名前を使うなど、とても過失とはいえないケースがあった。勧告・指導を受けた他社と処分に至った同社とでは問題の質が違った。微罪と言われるのは心外。重く受け止めてほしい」。 またグループ内譲渡という“奇策”についても、厚労省老健局の幹部は「道義的にこうしたことが許されるかどうかは普通に考えればわかるでしょう。こうしたことを平気で言う事業者が、こと介護業界の最大手とは情けない」と不快感を隠さない。
折口会長は1年前の本誌インタビューで、「(制度開始から)最初の5年間は厚労省のハードルも比較的低めだった。だが今回の法改正でいいかげんにやってきたところは退場せざるをえない」と語っていたが、今となっては皮肉な話だ。
先の会見では他のコムスン経営陣からも事の重大性への認識が欠如した発言が相次いだ。折口会長の進退への質問に対して、コムスンの入江康文専務は「非常にナンセンスな質問だ。折口がいなければGWGは成り立たないし、折口あってこそのGWGだ」と忠誠心を顕示して報道陣を失笑させた。利用者の獲得数に応じた席次で幹部を並ばせるといった企業風土が不祥事の背景にあるのではとの質問に対しても、「民間企業として特段問題ある行為とは思わない」(入江専務)と回答した。
そうした体質が物言えぬ職場環境を生んだ可能性もある。「2万人超の組合員がいるのに、1件も現場からの内部告発はなかった。今回の問題は経営者とともに組合の恥」。組織化を主導したUIゼンセン同盟の二宮誠・東京都支部長は肩を落とす。札幌市の特別養護老人ホームで虐待があったとする内部告発者を支援してきた実績のある札幌地域労組の鈴木一書記長は苦言を呈する。「労組の役割は労働条件の改善のみでなく、自らが働く企業をチェックすることも重要な任務だ。特に福祉職場において、そのことは利用者の安全や命を守ることに直結する」。
今後重要なのが利用者の受け皿づくりであることは言うまでもない。
GWGが全介護事業からの撤退を表明した後、同業他社が次々引き受けに名乗りを上げた。早かったのが外食大手で介護業界に参入したワタミだ。渡邉美樹社長は「待ちのスタンス」を崩さないものの、同社が展開する有料老人ホームの引き受けに意欲を見せる。老人ホームには大手のベネッセコーポレーションも関心を示す。やはり早くに意思表示をしたのが、業界最大手のニチイ学館。寺田明彦会長は、訪問介護、デイサービス、グループホームなど主力事業に加え、老人ホームを含めた一括引き受けに関しても検討、交渉していく方針を表明した。
売り手である折口会長の意向はどうか。「専門性を有する介護業界他社への売却が優先されるが、労組の望みもあり最優先されるのは一括譲渡という条件。それが同業他社で難しければ経営基盤がしっかりしている異業種もありうる」と話す。