見過ごされる「飛行機内での性犯罪」の実態 航空各社は対策をするべきだ
国際航空運送協会(IATA)によると、昨年各航空会社から報告があった「性的に不適切な行為」は、計211件だった。これは、約38億人に上る乗客総数と、フライト4000万便を分母にした数字だ。
IATAの声明によると、このうち当局に通報されたのは半数以下だという。事件化される件数が少ないのはこのためだ。
「被害者に告訴の義務がある。航空会社が代行することはできない。通報件数は、被害件数より少ないとみられる」と、米客室乗務員協会の広報担当者テイラー・ガーランド氏は言う。
アジア太平洋航空会社協会のアンドリュー・ハードマン事務局長は、IATAのデータは慎重に見る必要があると指摘する。
「報告事案の内容には必ずしも基準があるわけではなく、各社が自主的に報告するレベルには大きな差がある」と、ハードマン氏は言う。「セクハラが絡む案件には、言葉による嫌がらせから実際に体に触れるわいせつ行為までさまざまだ。わいせつ行為の件数は比較的少ないが、常に重く受け止められている」
恥の文化
ロイターが取材した主要航空会社20社以上のうち、フライト中のセクハラ事件の件数を公表したのは、日本航空<9201.T>だけだった。年間10─20件で、警察に通報することもあるという。
マレーシアの格安航空会社(LCC)エアアジア <AIRA.KL>のスハイラ・ハッサン氏は、乗客間のハラスメントの報告はこれまでないものの、乗務員がハラスメント被害に遭うことは時々あると話す。
航空会社側に通報されない案件もいくつかあると考えらえる、とハッサン氏は語る。「文化のせいだと思う。表ざたになるのを恥ずかしがる人は多い」
この指摘は、職場でのセクハラの75%が報告されていないという米国での研究とも合致している。
アジアでは、セクハラを公に議論する文化が比較的弱い。
「人々が一般的にあまり声を上げない文化だと思う。被害者は、沈黙の中で苦しんでいる」と、シンガポール航空<SIAL.SI>の元乗務員で、今ではアジアや中東で乗務員訓練のコンサルティングを行うジェイソン・タン氏は言う。
ジェット航空<JET.NS>の元乗務員のエルザマリー・ダシルバ氏は、現在はセクハラや性的被害の事案をクラウド収集するサイトを運営している。同氏は、インドでは、被害に遭ったことを恥と感じる人が多く、被害者側が訴えた内容を証明しなければならないため、通報件数が少ないという。
「インドの航空業界は、もっと事態を重く見るべきだ」と、同氏は話す。