大久保で35年、24時間保育園園長が語る実情 なぜドキュメンタリー映画に? 

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最初に預けにきた母親は、歌舞伎町で働くホステス。0歳の女の子だった。丁寧に、大切にお世話をした。でも、翌日になっても母親は迎えに来ない。片野さんは彼女を信じ、泊まり込んで迎えを待った。警察には届けなかった。1週間後、園に現れた母親は「お金がないと言うと預かってもらえないと思った」と泣きながら、保育料を差し出した。片野さんは言う。

「母親は1週間働きながら悩んで、田舎に帰ることを決めていた。『そのお金は持って帰っていいよ』と言いました。私たちも全然お金なかったけど(笑)」

開園3カ月を過ぎると子どもが集まるようになった。規模も徐々に拡大。保育士も15人以上に増えた。仁志さんが通販カタログ事業を起こし、資金を調達。それを保育園に転用した。だが、無認可であることは変わらず、行政からの補助金は1円も出ない。行政の担当者からは「どんな保育をしているのかわからない」と目の敵にされた。

保護者7割がキャリア

「行政マンとはずっとケンカしてきた。若いころには都庁まで行って、机の脚を蹴ってきたこともありますよ。保育の質には絶対の自信があったけど、無認可だと彼らの姿勢は絶対に変わらない。だから17年前に認可の獲得運動を起こしたんです」

行政と闘いながら、親戚や知人、保護者にも頼み込んで、社会福祉法人設立のために1億3千万円もの資金を調達した。今では、社会福祉法人「杉の子会」として、民間学童「エイビイシイ風の子クラブ」も運営する。完全オーガニック食材の給食や注意欠陥・多動性障害のある子どもへの療育プログラムを導入するなど、画期的な試みも評価されている。とはいえ、認可の夜間保育園は、全国に約80カ所しかない。一方で、無認可のベビーホテルも含め、夜間に預けられている子どもは全国に約3万人いる。

「女性の働き方が多様化している今、園の保護者の7割がキャリアです。私は夜間保育園が増えればいいとは思っていない。でも、今は本当に必要なところも足りていない。夜に働く親たちのもとにいる子どもを中心に考えてほしい。まだ行政にも残っている偏見が、少しでも減ることを祈っています」

映画では、同園だけでなく沖縄県や新潟県、北海道の夜間保育園の現場も描く。そこに映るのは「夜も親に会えない、かわいそうな子たち」ではない。ケラケラ笑って、すぐに泣く。私たちの隣にいる子どもたちが暮らす姿がある。

(編集部・作田裕史)

※AERA 2017年10月9日号

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