渋滞時のタクシー料金「90秒で80円」は妥当か 需要喚起策は「ちょい乗り」割引だけじゃない
以上の問題を解消するために、走行距離は進まなくても時間で運賃計算することを可能にすべきだ、という主張である。
経済学の立場から「機会費用」という言葉でも説明されている。タクシー運転手が渋滞する目的地に客を運ばなければならない場合、渋滞しない目的地に行く乗客を運んでいれば得られたであろう利益を機会費用とし、そうした選択肢を持てないタクシーの料金にそれを転嫁するという考えである。たとえ車が動いていなくてもエンジンをかけ、エアコンも作動し、運転手はサービスに従事しているのだから、その分のコストの回収は当然だという考え方は理解できる。
ただ、この制度は消費者のメリットを無視している。そもそも、消費者が交通手段としてタクシーを選ぶ際に、どのような理由があるだろうか。移動はいつでもタクシー、という人は別として、通常は電車・バスを使い、必要に迫られてタクシーを使うという人が多いだろう。終電を逃した、重い荷物を持っているなどの場合に加え、速達性を求めて利用する人は多いだろう。
それにもかかわらず、時間距離併用運賃は、速達性が得られないときほど運賃が上がる仕組みである。鉄道であれば、速達性があるほど運賃は高い。普通列車ではなく特急を利用すれば特急料金がかかるし、さらに早い新幹線に乗れば、新幹線特急料金を取られる。「ひかり」より速い「のぞみ」はさらに高い。しかもJR特急を例に取ると、2時間以上遅れた場合は特急料金の払い戻しがある。
一方で、タクシーの場合は、遅くなるほど高くなる――すなわち乗車の効用が低いときほどおカネがかかることになり、鉄道の料金設定とは逆行する。そこに理由があることは前述のとおりだが、ここに消費者がタクシーの利用を敬遠する理由の1つがあるのではないか。
しかし、時間距離併用運賃だけは、手を入れられずに50年近くそのままである。高度経済成長期とは交通事情もタクシーの需給関係も異なっているというのに。
初乗り区間で低速になったら、運賃はどうなる?
加えて、料金の計算方法も不可解だ。私は、時間距離併用運賃の計算方法にひとつ疑問を抱いた。初乗り運賃区間で、渋滞にはまるなど、時速10km以下の走行となった場合はどうなるのかということだ。
そこで、タクシーに乗る度に運転手に対して質問をした。計30人ほど聞いただろうか。すると、質問自体を理解できない人、初乗り区間では上がらないという人、数分で上がるのでないかという人……回答はさまざまだったが、誰一人明確に説明できなかった。
タクシー会社はどうか。「大日本帝国」といわれる都内のタクシー会社大手4社、大和自動車交通、日本交通、帝都自動車交通、国際自動車に加え、小田急タクシー、東京MKタクシーに問い合わせてみた。大和、帝都、国際、小田急は乗車すぐに時速10km以下の走行となれば1分30秒(90秒)後にワンメーター上がると回答した。日本交通と東京MKタクシーは6、7分ほど経ったらワンメーター上がると回答したが、その理由は明確に答えられなかった。
私自身、国土交通省やタクシー業界団体等の資料等を調べたが記述がなく、ようやく北九州のあるタクシー会社のHP解説でこの仕組みを知るに至った。実は、至極単純な話だ。タクシーに乗車したら、初乗り区間であろうとその後であろうと、料金メーター上は時速10km以上で走り続けているものとして計算されているのだ。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら