上場したJR九州はどこまで利益を増やせるか 固定資産を一括減損して、鉄道黒字化果たす

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この結果、当面の鉄道事業の減価償却費はほぼゼロになった。新幹線使用料もなくなったことから、JR九州の鉄道事業は一気に黒字体質へと変貌した。2016年3月期に105億円の営業赤字だった鉄道を含む運輸サービス事業は、2017年3月期に230億円の営業黒字となると会社側は予想している。

だが、ここで疑問が生じる。2013年製造のななつ星は唐池会長も言うとおり利益が出ているとすれば、減損は必要ない。同様に2003~2012年に20編成が製造された九州新幹線の車両や2015年に導入された真新しい305系という都市圏の通勤電車を減損の対象にするのは奇異な印象を受ける。

もっとも、会計の専門家によれば、この会計手法は適切だという。減損は個別資産ごとに行う場合と特定の資産グループをひとまとめにしたグループ単位で行う場合とがある。JR九州は「路線のネットワーク全体でキャッシュフローを形成している」という理由から、鉄道事業を一つのグループと見なしている。都市圏の在来線やななつ星が利益を出していたとしても、鉄道事業全体は赤字だ。このため、鉄道という資産グループの資産価値がほぼゼロまで減損されたというわけだ。

これで短期的な収益体質はよくなった。ただ、将来も鉄道事業が安泰というわけではない。減損を経て黒字化はしたものの、2016年4月以降の新規設備投資については今までどおり減価償却がかかる。また三島会社の特例として認められてきた固定資産税の軽減措置も、株式上場に伴って段階的に縮小し2019年以降は完全に廃止される。すなわち、コストは今後、確実に膨らむのだ。

不動産の成長余地は大きい

上海でも展開する居酒屋「うまや」 (写真:記者撮影)

一方、売上高はどこまで成長させられるか。2022年度には九州新幹線(長崎ルート)の開業が予定されているが、鹿児島ルート同様、整備新幹線方式で導入されるため、収入が増えても使用料がかかる。利益貢献は小さい。

経営難にあえぐJR北海道は11月18日に「自社単独で維持することが困難な線区」を発表した。このため「JR九州でも赤字路線を廃止するのでは」との見方が出ている。青柳社長は「鉄道ネットワークは維持する」として、路線廃止ではなく駅無人化などの経費削減で利益を確保する構えだが、廃止を警戒する沿線自治体の間では、JR九州の株式を取得して株主の立場から路線存続を訴えようという動きもある。

いずれにせよ鉄道事業がジリ貧なのには変わりない。肝心なのは、やはり非鉄道事業の成否だ。この点、成長余地が大きいのは不動産事業である。「JR東日本が田町─品川間の車両基地跡地を再開発して品川エリアに巨大な街を作り出そうとしているように、JR九州も鉄道用の事業土地を再開発すれば成長できる」と、楽天証券の窪田真之チーフ・ストラテジストは期待する。

鉄道事業が利益を出している間に、いかにして不動産や流通などの非鉄道事業を育成していくかに、JR九州の今後が懸かっている。上場で満足せず、これまで以上の積極果敢な姿勢が求められる。

大坂 直樹 東洋経済 記者

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おおさか なおき / Naoki Osaka

1963年函館生まれ埼玉育ち。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。生命保険会社の国際部やブリュッセル駐在の後、2000年東洋経済新報社入社。週刊東洋経済副編集長、会社四季報副編集長を経て東洋経済オンライン「鉄道最前線」を立ち上げる。製造業から小売業まで幅広い取材経験を基に現在は鉄道業界の記事を積極的に執筆。JR全線完乗。日本証券アナリスト協会検定会員。国際公認投資アナリスト。東京五輪・パラにボランティア参加。プレスチームの一員として国内外の報道対応に奔走したのは貴重な経験。

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