韓国の危機に溜飲を下げている場合ではない 大陸の強大化で日本列島も朝鮮半島も正念場

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中国はもとより、その動きを歓迎した。与国の北朝鮮と敵対し、ライバルの米国の先鋒の役割を担っていたはずの韓国が、自らすり寄ってきてくれたのである。喜ばないはずはない。そのあまり、北朝鮮との関係がギクシャクして、金正恩(キムジョンウン)政権にいささか無謀性急な軍備増強を図らせる結果を導いた。核武装まで視野に入ってきたのである。

そこまで来て、韓国は後悔したらしい。最も北朝鮮のブレーキになってほしい時に、中国が動いてくれなかったからである。中国からすれば当然、隣り合う北朝鮮の不安定化阻止こそ最重要課題であって、韓国の利害など顧慮するはずもない。

韓国はそれを見て取るや、今度は態度を一変、米国・日本との関係改善に舵を切る。もちろん最大の貿易相手国の中国の怒りを買い、日米の猜疑も解けない。たちまち進退に窮した。その揚げ句、政権は液状化し、崩壊が目前に迫っている。

不快極まりない言動を繰り返した韓国。その危機に溜飲を下げる日本人は、少なくないかもしれない。それは大いにけっこう、しかしそこで終わりにしてはならない。

賢明とはいえないが条件反射のようなもの

確かに賢明とはいえなかった韓国の言動。けれどもそれは、その地政学的な位置が然らしめる条件反射のようなものである。四囲を海で囲まれた日本の人々に、こうした生理は永遠に理解共感できまい。

かつて朝鮮王朝は、明治日本に対抗するため、清朝の威を借り、ロシアの勢力を引き入れた。返す刀で清朝の圧力をかわすため、日米を頼った。そして独立自主を達成してまもなく、亡国の憂き目に遭った。

強大国が取り巻く半島政権は、生き延びるために、利用できる勢力はなるべく動員せねばならぬのである。これを戦略ともいえるが、そう名付けるには、あまりにも性急で、余裕がない。やはり半ば生理的・本能的な条件反射というべきだろう。

その反射をいかにコントロールし、秩序の安定に導くか。過去の歴史では、それが実現せずに行き着いた先は、半島政権の消滅である。

はるか古(いにしえ)の三国時代にせよ、前世紀の植民地化にせよ、いずれも、列島に幸福をもたらさなかった。高い代価を支払ったのは、ほかならぬわれわれ日本人なのである。

大陸の強大化で、半島も列島も正念場にある。白村江・元寇以来の危機かもしれない。史上そうした局面に居合わせていることを肝に銘じたい。

岡本 隆司 京都府立大学文学部教授

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おかもと・たかし / Takashi Okamoto

1965年生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学。博士(文学)。『属国と自主のあいだ』『明代とは何か』『近代中国と海関』(共に名古屋大学出版会)、『世界史とつなげて学ぶ中国全史』『中国史とつなげて学ぶ日本全史』(共に東洋経済新報社)など著書多数。

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