上陸40年、「ノース・フェイス」売れ続ける理由 最近はトレラン市場で人気沸騰
この劇的なV時回復の理由は、3つに集約される。
ひとつは自主管理売り場の強化だ。2011年3月期に35%だった自主管理売上比率(直営店売上比率)は、2016年3月期には52%まで上昇。売上高では国内スポーツアパレルの4番手に位置するのは変わらないが、卸から自主管理売場主体のビジネスモデルの転換では、もっとも成功していると言っていいだろう。これにより、強化商品の仕掛け、ヒット商品の追加、在庫の適正管理といった卸主体の時にはできなかったことを自らコントロールできるようになり、確実に利益を生み出せる体制を築き上げた。
二つ目は、鮮度の高い商品を開発できるようになったことだ。この再生期に、アウトドア関連事業の展示会に行った時、王様的存在のTNFの横で、ヘリーハンセンがよりファッション性の強いアウトドアウェアを提案していて、ライバル同士のように“鮮度”を競い合っているような印象を受けた。そうしたいい意味での競争が、会社全体のファッション感度を飛躍的に引き上げたのではないだろうか。
三つ目は、チームワーク力の向上だ。「デザイナーは商品を作る、ショップ担当者は店を作る、店員は売るスペシャリストですが、自分のことしか考えていなかったら成果はあがりません。弊社の社員はスポーツ系が多いので、幸いチームワークというものに理解があります。リオデジャネイロ五輪の男子体操やリレーのように、皆のそれぞれの努力が束になった結果、今の回復があるのだと思います」と西田社長は言う。
ここ数年は業績が安定している同社だが、次代を見据えた新規事業、新規業態、新ブランドの開発にも意欲的だ。なかでも、「次世代タンパク質素材の実用化」を推進する山形県鶴岡市のベンチャー企業、スパイバーとのスポーツ衣料分野での提携は、同社の先見性を示す象徴的な取り組みと言える。
昨年、スパイバーが世界で初めて開発に成功した人工合成クモ糸素材「QMONOS」を用いたTNFの「ムーン・パーカ」のプロトタイプを発表。人工のクモの糸は、米航空宇宙局(NASA)や米軍でさえも実用化できなかった“夢の素材”と言われる。
そんな画期的な素材を用いた世界初の製品は、既存モデル(アンタークティカ)の1.5倍の価格(12万円前後)で発売される予定である(今年中の発売は見送られた)。
「ライフスタイル系」の新業態も展開
新業態の開発にも取り組んでいる。4月に東京・外苑前にオープンした「ニュートラルワークス」は、「ココロとカラダをニュートラルに整える」ことをテーマにしたアスレチックショップ。TNF、ヘリーハンセン、エレッセなどのブランドをミックスして、ラン、ヨガ、ジム、ライフスタイルなどのカテゴリー別で売場を構成。1階には体の内側から健康的に美しくするフードとドリンクを揃えたカフェを、3階には低酸素トレーニングルーム、水素吸入、パーソナルストレッチなどのサービスを提供する施設を備えている。
また、1976年から展開しているイタリアのスポーツブランド、エレッセのリブランディングも推進している。16年秋冬シーズンから、若い女性に人気のあるファッションブランド「ユージュ」のデザイナー、弓削匠さんがデザインを手掛ける新ライン「エレッセ オーセンティック アスレチック」をスタート。錦織圭選手の活躍でブームの兆しのあるテニスとファッションを結びつける試みで、自社店舗のほか、セレクトショップなどへも販路を拡大して行く方針だ。
私が思う同社最大の課題は、社名をブランド名に冠した「ゴールドウイン」が、スキー、モーターサイクル、ライフスタイル分野のみの展開に留まっていることである。今のTNFの商品開発力を鑑みれば、巨大なライバルがひしめくランニングやアスレチックの主力市場に打って出ても、勝算は必ずあるのではないだろうか。
(撮影:今井 康一)
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