スイス鉄道メーカー、世界3強に迫る大躍進 世界最大の鉄道見本市で実力を見せつけた

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EC250型車両の2等車車内。スロープを設け、段差のない構造となっている

今回、InnoTransへ実際に出展された車両のうち、特に注目を集めていた車両は、もちろんEC250型車両だろう。同車両は、2016年12月に正式開業する予定のゴッタルド基部トンネルを通り、スイス各都市とイタリアを結ぶルートで運行させるための車両として、シュタドラー社が受注したもので、もちろん同社初の中速車両となる。

とはいえ、これまで蓄積されてきた豊富な技術的ノウハウはもちろんのこと、同社が躍進するきっかけとなったGTW2/6以来、得意とする低床式連接構造を採用しており、性能や信頼性に不安はない。

連接構造を採用した優等列車というと、フランスのTGVやイタリアのイタロに採用されたAGVを思い浮かべる。いずれもフランスのアルストム社が製造しており、前者は旧来の動力集中方式(前後の機関車が牽引・推進する)を採用する一方、後者は日本の鉄道車両と同様の動力分散方式(いわゆる一般的な電車方式)を採用した。

世界的な流れとして、性能やエネルギー効率の面から、最近は各国とも動力分散方式を採用する傾向だが、フランス国鉄SNCFへの取材の中で、同社は今後も引き続き、動力集中方式のTGV(Duplex)を導入していくとの見解を示している。動力分散方式を採用し、次世代の高速車両として華々しく誕生したAGVだが、床下に機械を満載している関係で、低床化ができない点を指摘されていた。ホームの高さが低いフランス国内の駅では、バリアフリーに対応ができないなどの理由で、AGVの本国での採用は見送られ、今後も採用予定はない。

EC250型は、動力分散方式を採用しつつ、これまで同社が扱ってきた低床式近郊電車のノウハウを活用、長距離用中速車両ながら低床化を実現、バリアフリーにも対応している点は特筆に値する。

「新ビッグ3」の一角に

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アゼルバイジャン向けの新型寝台車

シュタドラー社の展示の中で、もう1車種注目を集めたのが、アゼルバイジャン国鉄向けに製造した1等寝台車だ。欧州域内で使用される、従来の標準的な寝台車の構造を踏襲しつつ、トイレ兼シャワー室をうまく配置し、快適な室内空間を生み出している。契約では、シャワー・トイレ付個室を備えた1等寝台車以外に、2等寝台車や食堂車なども製造される予定となっている。

昨今は、欧州でも衰退の傾向にある寝台列車だが、まだまだ一定の需要があり、実際オーストリア連邦鉄道では2017年に新型寝台車を投入する計画だ。こうした寝台車の展示は、将来的に各国での新型車両投入に期待を抱かせる。

いわゆるビッグ3や、成長著しい隣国の中国中車など、注目を集めるメジャーメーカーとは異なり、日本ではまだあまり知られていないシュタドラー。しかし、同社の高品質で堅実なモノづくりや、豊富な商品ラインナップは、ビッグ3に次ぐ第二勢力……いや実力のうえでは、すでに欧州ビッグ3に食い込む「新ビッグ3」の一角を担うと言っても、決して過言ではないだろう。近い将来、日本でもシュタドラーの名前を見る機会が増えることになるかもしれない。

橋爪 智之 欧州鉄道フォトライター

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はしづめ ともゆき / Tomoyuki Hashizume

1973年東京都生まれ。日本旅行作家協会 (JTWO)会員。主な寄稿先はダイヤモンド・ビッグ社、鉄道ジャーナル社(連載中)など。現在はチェコ共和国プラハ在住。

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