リニア「国家プロジェクト化」は大丈夫なのか 採算や経済効果危ぶむ声も

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その後、今年6月の「骨太方針」に財投活用による大阪までのリニア前倒し開業が盛り込まれることとなったのは「日銀によるマイナス金利の導入がきっかけだった」(政府高官)という。

首相ブレーンとして強い影響力を持つ藤井聡内閣官房参与(京都大大学院教授)は、ロイターに対し「マイナス金利政策の中、公共投資の活性化のための財投を活用すべきだと安倍首相に提案した」と断言した。

不透明な経済効果、輸出市場も見当たらず

ただ、今回の「国家プロジェクト」案には、経済効果について一部で疑問の声も上がっている。

国土交通省・交通政策審議会答申(2011年5月)では、経済成長率1%を前提に大阪までの開業時(2045年)の経済効果を年間8700億円と試算した。国内総生産(GDP)500兆円のわずか0.17%だ。

さらに大阪府は、2027年に大阪と名古屋を同時に開業する場合の上乗せ効果について6700億円と試算。

これに対し、藤井教授は累計136兆円、年間7.5兆円、GDPの1.1%になるとはじき出し、両者には相当な開きがある。

輸出への期待も、現状では先行き不透明感が色濃い。安倍首相は昨秋、オバマ米大統領にワシントンDC―ニューヨーク間でのリニア採用計画を提案した。

米国側は調査費として連邦政府補助金を承認し、日本側も今年度予算で同様に調査費を計上した。ただ、採用されるかどうかの見通しは立っていない。

さらに世界中を見ても、米国での案件以外に超高速新幹線に見合う候補地が見つかっていない。その点はJR東海自身も認めている。輸出案件の進展がはかばかしくない場合、東京─大阪間がリニア新幹線の唯一の路線になりかねない。

「リニア新幹線―巨大プロジェクトの『真実』」の著者であるアラバマ大学名誉教授の橋山禮治郎氏は「海外輸出の可能性はゼロ」と言い切る。「世界で鉄道に求められているものは超高速性ではなく、安全性、利便性、ネットワーク性、環境保全性。(リニア開発は)はっきり言って独りぼっち」と語る。

もともとリニア新幹線の導入目的は、東京─大阪という大動脈の二重系化と、東海地震など災害リスクへの備え、そして東海道新幹線の大規模改修工事への対応だった。

ただ、リニア技術の採用で新幹線整備事業としては「これまで例を見ない巨額投資」(国土交通省鉄道局)となることが確実になった。財投資金の投入に関しては、このビジネスの将来性や経済効果など一段と詳細なシミュレーションと国民の理解が必要だとの指摘もある。

BNPパリバ証券・シニアエコノミスト、白石洋氏は「財投資金を使ってやるべきことなのかどうかの判断は、経済全体にとってリターンがあるか、外部効果があるのかという点が基本的な判断基準になる。だが、その必然性が不明だ」と指摘している。

 

(宮崎亜巳 中川泉 取材協力:リンダ・シーグ 竹中清 編集:田巻一彦)

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