光降る丘 熊谷達也著

拡大
縮小
光降る丘 熊谷達也著

2008年6月、宮城岩手県境を襲った地震は山が丸ごと消えるほどのすさまじさだった。栗駒山麓の耕英(本書では共英)も壊滅的打撃を被ったが、地震直後の「今」と、戦後、苦難の開拓事業が進められた耕英での「過去」への回想シーンとが織りなされて話は進む。登場人物は架空でも、開拓史資料を基礎にした小説の骨組みは単純なフィクションではない。

今やほとんど忘れ去られているが、戦前の満蒙開拓団から戦後の荒地開拓まで、開拓村の労苦は並大抵のものではなかった。月並みに言えば泥と汗と涙、時に命と引き換えに形成された「共英」村。主人公一家の人間ドラマは強い意志と家族愛、仲間との連帯感を描き普遍的価値を持ちうるだろう。ようやく曙光が見えてきた村を襲った災禍と、それに立ち向かう村人の姿は東日本大震災に重なり、強い感動を呼ぶ。あふれ返る東北弁と土のにおい、随所に生きるユーモア、終局も締まっている。(純)

角川書店 1890円

  

関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事
トレンドライブラリーAD
連載一覧
連載一覧はこちら
人気の動画
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】新興国化する日本、プロの「新NISA」観
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
【田内学×後藤達也】激論!日本を底上げする「金融教育」とは
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
TSUTAYAも大量閉店、CCCに起きている地殻変動
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
【田内学×後藤達也】株高の今「怪しい経済情報」ここに注意
アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
  • シェア
会員記事アクセスランキング
  • 1時間
  • 24時間
  • 週間
  • 月間
トレンドウォッチAD
東洋経済education×ICT