日本触媒の爆発事故 2つの「集中」の果て

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現場の自信が裏目に

当時、姫路製造所長は「建設が最大の教育」と語っていた。紙おむつの需要拡大に応え姫路製造所は増設に次ぐ増設を敢行したが、建設は「バラコン」だった。ゼネコンに丸投げするのではなく、詳細設計には製造現場が必ず参加し、バラバラに発注する。「このバルブ1個、シーケンス一つが、なぜ必要か。建設してみないとわからない」。隅々まで目が届く強い現場を作り上げた、という自信があった。

00年から11年初まで休業災害、設備事故はいずれもゼロ。その一方で、姫路の総生産量は00年の45万トンが10年には倍の85万トンに膨らんだ。人員は700人前後でほぼ横ばい。たいへんな効率化だが、懸念されるのは、自信ゆえに現場の負荷を見逃すリスクがなかったか、だ。

姫路製造所の今回の事故は、いわば「成功が復讐する」物語である。日本触媒の成功は、二つの「集中」によって支えられていた。アクリル酸・SAPへの集中、そして姫路への集中だ。アクリル酸の生産能力62万トンのうち74%、SAP47万トンのうち68%を姫路が担っている。

とりわけ中国投資を最小限に抑えてきたのは、精妙なSAPの生産技術が漏出するおそれが一つ。もう一つは姫路の集中生産のメリットを損ないたくなかったためと思われる。

だが、新興国市場の急拡大で転換を余儀なくされる。ここ1~2年、海外の増設計画を矢継ぎ早に発表した。来年夏にインドネシアでアクリル酸8万トン、SAP9万トン。中国でも14年にSAPを3万トン増設へ。これまで抑制してきた分、海外投資は大規模になる。

これら海外の新増設を指揮するのは、マザー工場=姫路の技術者たちだ。ただでさえ重い姫路の現場の負荷がさらに膨らんだ可能性はある。

池田社長は「再開のメドはまったくわからない」と言う。自治体から製造所全体に操業停止命令が出されており、機会損失は1日約1・5億円。

姫路の生産停止で再び市況が噴き上げることは間違いない。が、今度の高騰で潤うのは、新規参入の中国メーカーである。「成功の復讐」は長く尾を引くことになりそうだ。

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(本誌:梅沢正邦、筑紫祐二 =週刊東洋経済2012年10月13日号)

記事は週刊東洋経済執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。

 

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