茨城県は全校で4月に、さいたま市は今春モデル校で先行導入

今年4月、茨城県は県内の公立小学校・義務教育学校全469校の5、6年を対象に教科担任制の導入を始めた。小学校で教えるには小学校の教員免許が必要だが、中学校の教員免許でも専門教科に相当する教科(中学の数学なら小学の算数)を受け持てることから、理科、英語、算数を中心に中学校教員免許を持つ教員を教科担任として配置し、1学級当たり週3~5時間を受け持たせる。

また、義務教育9年間を見通した「小・中一貫教育」を推進するさいたま市も、今春から教科担任制を10のモデル校で先行導入。2023年度にはすべての市立小学校104校に拡大する計画だ。

教科担任とは、教科を指導する教員のこと。中学校では、教科ごとに専門の教員が指導する教科担任制を採用しているが、小学校は1人の教師が担任する学級で、すべての科目を教える学級担任制が基本だ。しかし、1人ですべての教科を教えるのは高学年では負担が大きく、これまでも部分的に小学校で教科担任制を導入するケースはあった。文部科学省「平成30年度公立小・中学校等における教育課程の編成・実施状況調査」によれば、小学6年の音楽(55.6%)、理科(47.8%)、家庭(35.7%)、書写(26.8%)、図画工作(21%)、外国語活動(19.3%)で教科担任制が実施されている。

教科担任制を導入する4つの目的とは

中学校と違い、小学校の教科担任制では、学級担任制を基本としながら、教科担当教員の配置や、学級担任同士の交換授業を取り入れていく形になるとみられる。そこには大きく4つの目的がある。

第1は児童の学力向上。1人の学級担任が、毎日最大6コマすべての授業を教え、さらに翌日の授業の準備をするのは時間的に無理がある。そこにさらに英語やプログラミング、ICT活用まで加われば、問題はいっそう悪化する。

教員にも得意、不得意の科目はある。例えば理科は、高等学校で理科系科目が選択制になり、入試に理科系が受験科目に入っていない文系大学出身の場合、苦手意識を持つ教員が増えているという。教科担任制を採用すれば、授業準備の時間を確保しやすくなり、専門性や指導力が向上し、児童の学力向上が期待できる。

第2に、クラスに複数の教師が関わることで多面的に児童を見ることができる。学級担任が児童との密接な関係を築くことも大事だが、必要に応じてチームで指導することで、きめ細かな指導につながる。

3点目は、中学校進学後の急激な環境変化に子どもが戸惑い、さまざまな問題を抱えやすくなる「中1ギャップ」の緩和だ。小学校の段階から教科担任制に慣れることで、中学校の環境へのスムーズな移行が可能になる。

4点目が、教員の働き方改革。授業や生活指導に加え、さまざまな校務、保護者対応などで、教員は多忙を極め、残業や持ち帰り仕事も多い。そうした環境が敬遠され、教員のなり手は減る一方だ。教科担任が受け持つコマを授業準備や校務に充てれば、労働環境改善が期待できる。

教科担任制の4つの目的
1. 児童の学力向上
2. 複数の教師が関わることで多面的に児童を見ることができる
3. 「中1ギャップ」の緩和
4. 教員の働き方改革

実践する自治体、兵庫県や横浜市における評価

小学校の教科担任制は50年以上前に各地で指定校研究が行われていた歴史があり、今もいくつかの事例が実践されている。

兵庫県では01年度から少人数授業や教科担任制を組み合わせた「兵庫型教科担任制」を実施。学級担任同士で教科を決めて交換授業を行ってきた。例えば、1組と2組の先生が話し合い、両クラスとも理科は1組の先生、社会は2組の先生が教える。これにより授業の準備が1教科分減ることになり、教材研究の深化や授業改善につながる。

兵庫県では、これに加配教員を活用した少人数授業も組み合わせ、約8割の児童が「よくわかる授業が増えた」「担任の先生以外の先生に気軽に話ができるようになった」(兵庫県教育委員会「平成22年度『兵庫型教科担任制』推進状況調査」)と回答した。しかし、交換授業だけでは、受け持ちのコマ数は変わらず、成績評価の作業や、行事などで時間割を変更する際の教員間の調整が煩雑なこともあって、なかなか広がっていない。

そこで横浜市は、18年度から非常勤講師を加配したうえで、ベテラン教員の「チーム・マネジャー」が時間割の調整などを行う「教科分担制」のモデル事業を小学校高学年で始めた。教員の授業負担を軽減する非常勤講師の配置や、チーム・マネジャーが学級担任を持たずに学年のコーディネートに専念できる体制を整備。モデル校は18年度の8校から、21年度は市内339校の約3分の1強に当たる129校に拡大している。

横浜市の教員は、若手の比率が高まっていて、初めて教える教科の授業では教材研究などの準備の負担が重くなり、学級運営にも不安が残る。そこで、教科分担制では、1人の学級担任による学級運営から、学年の教員全員がチームとして学級運営を行う体制へ意識を転換。学級で生じた問題には、学級担任だけでなく、チーム・マネジャーを中心に学年の教員全体で解決に当たる。

受け持ちする科目が減って授業準備の時間も取りやすくなり、教職員アンケートでは、「全くよくなかった」を0ポイント、「非常によかった」を100ポイントとする20ポイント刻みの5段階評価の平均で、教材研究の効率のよさは、導入前の52から80ポイントに上昇するなど好評だ。

横浜市教育委員会事務局 学校教育企画部 教育課程推進室長の山本朝彦氏は「従来なら小学校の授業は1回勝負で、翌年以降に同じ学年を受け持つ時まで、同じ教材で授業をする機会は少ないが、教科分担制では複数回の授業の機会がある。児童の反応を見ながら内容をブラッシュアップもできる」と話す。教科分担制導入校では、児童の学習意欲の向上や、教員の指導力向上など、学力向上につながる成果がみられるという。

モデル校を希望する学校は多いが、課題は非常勤講師ではない正規教員の加配と、その教員の確保だ。「教員志望者数の減少に加え、35人学級への移行でもさらに教員が必要になる。教科分担制は拡大したいが、人材の採用環境は厳しい」(山本室長)。

ICT活用、少人数学級、そして教科担任制――。「誰1人取り残さない教育」の実現に向けて、学校教育に新たな環境、仕組みが矢継ぎ早に打ち出されているが、それらを有効に機能させるには人材の確保、育成がカギになる。

(写真:iStock)